触って、七瀬。ー青い冬ー
第1章 七瀬夕紀の感傷
でも、それは良くなかった。
僕には味方がいなかった。
誰でも僕を責めることができた。
誰も僕を守る理由がなかった。
「おい七瀬」
僕はある日、突然呼び止められた。
放課後の帰り道だった。外は暗くなりかけていた。
「はい」
振り返ると、クラスの男子生徒が数名立っていた。僕はとても驚いた。
誰かが僕に声をかけるなんて、と。
「お前、俺たちと遊ぶ気ない?」
クラスでよく問題行動を起こしている、気の強そうな生徒が言った。
その後ろには、いつもの周りにいるメンバーだ。5人いた。
「今日はちょっと用事あるから、ごめん」
何で僕に構おうとしたのかわからない。
多分、彼らは暇だったんだ。
そう思う。
僕は歩き始めた。
しかし、その前に立ちはだかって邪魔をされる。
「ちょっと待てよ」
リーダーらしい生徒は僕を前から突き飛ばした。
僕がもし、遊ぶという提案にうなづいていたら良かったのだろうか。いや、その提案が、そもそも純粋なものではなかったはずだ。
僕は後ろによろめいた。
「遊んでやるって言ったんだよ」
僕は眼鏡を触った。
「今日は塾が…」
僕は時計を見た。急いだ方が良い。
「お、その時計高そうじゃん」
生徒が僕の腕を掴んだ。
腕時計を値踏みしているのだろうか。
「あの、離してもらえませんか」
腕を振り払おうとしたが、僕の力は弱かった。
「お前の家、金持ちらしいじゃん。
ちょっとくらい分けろよ。小遣いいっぱいもらったんだろ」
「持ってません」
僕の家の経済的事情をなぜ他人が知るだろう。確かに、家は多少裕福かもしれない。
「じゃあこの時計でいい」
生徒の指が腕に食い込んでいる。
「この時計は無理です」
その時計は母が買ってくれたものだった。
これが最初で最後で、それ以降なにかを買ってもらうなんてほとんどなかった。
「いいからよこせよ」
「ぐっ」
鳩尾を蹴られ、僕はあっけなく地面に倒れこんだ。どうしてこんなに弱いんだろう。
そして腕から時計が剥ぎ取られた。
「よっしゃ、ついでだから遊び行くか?」
リーダーは腕時計を自分の腕につけながら言った。
「い…た…」
僕は蹲っていた。人生で最大の苦痛を味わったような気がした。
「動けねぇみたいだから運んでやれ」
僕は抵抗すらできずに、軽々と持ち上げられてしまった。