触って、七瀬。ー青い冬ー
第8章 初夜の残像
指と指の間に挟んだり、芯を出したり押し込んだり、唇に当てたり。
何気ない仕草なのに、全てが僕を誘惑しているみたいに思えた。
“ ごめん、教科書忘れた ”
高梨がそう言って机を合わせる。
高梨の手が僕の教科書をめくる。
その手をずっと見ていた。
その手が教科書を撫でる。
なんていやらしい手つきだろう。
僕の想像はどんどん膨らんでいった。
高梨に彼女はいるだろうか、
いるに決まってる…
どんな風に女の子を抱くのだろうか。
その手で肌を撫でるのだろうか。
僕は辛かった。
僕は永遠に高梨の恋人にはなれない。
ましてや、その手に触れてもらうなんて。
僕はそれでも高梨を見ていた。
見ているだけでも充分だった。
「はぁっ、はぁっ」
体育の時間、男子は教室で、女子は更衣室で着替えた。
当然僕と高梨は同じ教室で着替える。
僕はいつもこの時間が恥ずかしくて、でも内心楽しみでもあった。…高梨には申し訳ない。
「高梨ー、お前今日もバスケ?」
「当たり前」
高梨は僕の隣で制服を脱いだ。
こういうところで、隣で好きな人の着替えを見るなんて、同性が好きじゃなきゃあり得ない。
こんなこと言ったら、またゲイは気持ち悪いと思われちゃうか。
もちろん、高梨はそんな目で見られたくないだろうから、僕は見ないように努力した。
「お前めっちゃ鍛えてんなー」
運動部同士の会話は僕を誘惑していた。
あぁ、僕は本当にいけないことをしている。
高梨は腹筋を褒められていた。
「なぁ七瀬、高梨みろよ」
そいつはあろうことか、僕に直接【見ろよ】と、そう言った。これは拷問に違いない。
「別に…興味ない」
僕はそういいながら、高梨を見た。
体操着をまくり上げていた。
「っ…」
見てしまった…
あー馬鹿、本当に馬鹿。
「何顔赤くしてんだよー」
「してない!」
そいつのことは恨んでも恨みきれない…でも、ちょっとだけ感謝している。
「はぁっ、んんっ…」
高梨はモテた。
とにかくモテる。
僕はそのせいでこれほど苦しんだと言っても過言ではない。