触って、七瀬。ー青い冬ー
第8章 初夜の残像
「高梨先輩…いますか…」
この2ヶ月という短い間、何人が告白したのだろう。
「高梨ー?あー、多分体育館じゃね?」
昼休み、後輩の女子が高梨を探していた。
「ありがとうございます!」
僕は何度もその表情を見てきた。
無理に決まってる…
実際、高梨はその告白を断った。
「何でって、別に好きじゃないから」
「はぁあぁーー!!??」
周りの男子達はその答えを聞いてムカついていたどころじゃないだろう。
その子は一年の中でもかなり可愛い子という部類に分けられていて、学校のパンフレットに採用されるくらいには可愛かった。
「お前な…いい加減にしろよ…」
「俺が誰の告白断ろうと勝手だろ」
「そりゃ…そうだがなぁ!ムカつくんだよこの野郎!」
「ふーん」
高梨が告白を断るのは知っていた。
でも、それは彼女を作らないということじゃない。既にいるということだ。
「伊織ー」
高梨をそう呼ぶのは、千佐都。
生徒会の役員らしい。
その子は成績優秀でしっかり者で可愛い。
高梨はその子を千佐都と呼んでいたし、その子は高梨を伊織と呼んだ。
完全に、彼氏と彼女だった。
誰も、そうだとは言ってない。
でも僕は見てしまった。
「ん…ん」
二人の接吻を見てしまった。
放課後の教室、誰もいないと思っていただろう。
高梨は華奢なその子を、貪るようにしてキスしていた。その子も、負けじと高梨の唇を貪っていた。
その子はこんな風に乱れる子だと思っていなかったから、見てしまったのは申し訳ないと思った。
その子はそれほど高梨を好きだったんだろう…。高梨はその子の頭を撫でていた。
優しく。
僕が想像したような、いやらしい手つきなんかじゃなくて、か弱い女の子を労わる優しい手つき。