触って、七瀬。ー青い冬ー
第8章 初夜の残像
何故だろう。別に悲しくなかった。
でも、虚しかった。
高梨は決して彼女がいるとは言わなかった。
千佐都を守るためだ。
高梨は千佐都と話している時、優しい表情をしていた。
周りのみんなや僕に向けるような、
愛想のいい笑顔じゃなくて、幸せな笑顔だ。
好きなんだなぁ。
愛し合ってるなあ。
僕もあんな風に、誰かとなりたいな。
でも、今まで好きになった人なんかいなくて、この先も現れる気がしなくて、
僕は高梨が初恋の相手で、初めて好きって気持ちを知った。
高梨が、運命の人?なんて思ったりした。
運命なんて言葉、誰が作ったんだろう。
高梨と千佐都はみんなに内緒で、密かに会っていた。
僕は何故それを知ってたのか…
高梨を追っていたからだ。
この目で何度も確かめた。
二人は付き合ってる。
見たくないのに、確かめてしまう。
そうしないと、あれは偶然だったんじゃないかとか、遊びだったんじゃないかとか、
色々と理由をつけて、否定してしまう。
二人はたしかに付き合ってる…
わかってる。
高校生の遊びだ。
僕がこの高校を出たら、高梨のことは忘れるだろうし、高梨と千佐都は別れるかもしれないし…
でも、高梨は17年目にして現れた、初恋の相手だったんだ。
17年に一人、ということは、僕はこの先また17年、待つしかないのかもしれない。
いや、もう現れないかも知れない。
高校を出たら高梨のことを忘れるかもしれない?
…そんなのやっぱりあり得ない。
でも、高梨は…
高梨は女の子が好きだ…
「ん…んん…」
僕は腰を振るのをやめた。
高梨は僕を好きなんじゃない…
高梨は酔ってるだけで、
僕はそれに便乗してるだけ。
高梨は僕で遊んでるだけ。
「…なんだ」
僕は縛られた手首をよじらせた。
ネクタイが食い込んで全然取れなかった。
「これは遊び…」
さっきまで、凄く幸せだったなぁ…
早くここから逃げたかった。
高梨には申し訳ないけど…
「全部遊び…」
こんないい部屋に住ませてくれるって言ってくれたのに。