触って、七瀬。ー青い冬ー
第8章 初夜の残像
「…っ、く…」
自分の馬鹿さを思い知らされた1日だった。
千佐都はいじめられていた。
下校中、千佐都が道端で座り込んでいるのを見た。髪が濡れていて、靴は履いていなかった。
僕は見なかったことにして通り過ぎた。
最低、だ。
でも、いいじゃないか…
僕は永遠に高梨と一緒になれない。
でも君は高梨の彼女じゃないか。
僕ならそれだけで十分だ。
僕もいじめられていたからその辛さはわかるつもりだ。
だからつまり、それくらいの覚悟なら僕にもあった。
だからってその子がああして苦しんでいるところを見過ごしていいわけじゃない。
わかってる。
…僕は最低だ。
わかってる。
でもその子を助けるなんて、
僕には、できなかった。
だからこんなとこで泣いたりするんだよな…
あの子が逆の立場なら、あの子は僕を助けたんだろう。何せ、高梨が選ぶ子なのだから。
「…」
僕はどうして今まで気づかなかったんだろう。
僕には最初から希みなんてなかった。
でも、高梨は優しいし、世話焼きだから。
麗子さんも言ってた。
今まで何人ここに連れてきたかわからないって。
つまり、僕みたいに、ここに連れてきて何人もと遊んできたんだろう。
僕はその中の一人。
「ははっ…」
笑えてきた。
僕はずっと夢を見てたんだ。
そう、これは夢だった。
僕は先生の元へ行って無事を確認したら、父と母には全てを話して無事に勘当されるか、何も言わずにそのまま死ぬ。
それで良かった。
それでいいんだ。
「……ふっ」
笑うしかない。
こんな格好で何やってんだ。
僕はベッドの上に正座した。
手首…取れないな
ネクタイの下に、包帯が巻いてあった。
高梨が巻いてくれた。
死のうとした僕を止めてくれた。
こんな、夢見たいなとこに連れてきてくれて、夢を見せてくれた。
最後に、僕がピアノを弾いてきたことは無駄じゃなかったと教えたくれた。
…楽しかったなぁ。
…嬉しかったなぁ。
…ああ、やっぱり好きだったなぁ。