触って、七瀬。ー青い冬ー
第8章 初夜の残像
こんな風に包帯を巻いてくれる人がいた。
こんな僕を助けてくれる人がいた。
そう教えてくれた。
…僕は感謝してもしきれない。
高梨が戻ってきたら言おう。
好きだったって言おう。
そして逃げよう。
家に帰ろう。
そしてそこで…
そこで、死のう。
…これじゃ僕、病んでるみたいじゃないか。
別に、高梨のせいで死ぬんじゃない。
元々死ぬ予定だっただけ。
「んっ、んっ」
僕は腕を強く引っ張った。
ネクタイは取れない。
高梨に外して貰えるまでここで待つなんて…
「いって…」
食い込んで血が滲んだ。
ずっと引っ張っていて、無駄だとはわかっていた。
高梨を待てばいいのに。
だって、耐えられない…
何を?
…わからない
高梨は帰ってきたら、続きをしようとするか、それかこのまま僕を放置して遊ぶか…
どっちにしろ、僕は高梨に言わなきゃいけない。
僕は本気だよって。
それで高梨は困るかもしれない。
…やっぱり言わない方がいいのかな。
うん…
言わない方がいいよ。
言って困らせない方がいいよ。
「七瀬?」
「あ…」
高梨が帰ってきた。
「何で正座?」
高梨が僕に近づく。
うわー、どうしよ、血滲んでるよ…
馬鹿だな。
普通に待ってりゃ、このまま続きして、それで、さよならってできたのに。
変な空気になる。
「…」
高梨は気づいたみたいだった。
高梨は黙って僕の手首からネクタイを解いた。
「たか…」
「ごめん」
高梨は僕を抱きしめた。
「ごめんな」
やめてよ…優しくされても、
何にもならないんだよ…
「高梨、気にしなくていいから」
「ごめん」
高梨は僕の背中をさすった。
「お前がこういうことされるの嫌いだって知ってたのに」
高梨は僕がいじめを思い出したと思ってるみたいだった。
「そういうんじゃないから、大丈夫」
僕は笑って高梨を離した。
「あのさ…」
高梨は僕を申し訳なさそうに見ていた。
傷つけてしまった…。
僕の方が謝らないと。
「僕、やっぱり帰るよ」
「え?」
「高梨さ、酔った勢いだったし、あんまり気にしてないかもしれないけど、僕は…」
高梨が僕を見ていた。