触って、七瀬。ー青い冬ー
第8章 初夜の残像
本気だったよ…
なんて言えるわけない。
言えるわけ…ない。
「僕は、やっぱり、」
何て言えばいい?
なんて言ったら、高梨を…
高梨と離れられる…?
「やっぱり」
離れたいわけない、ずっと一緒にいたい。
でも高梨はただ遊んでるだけ。
酔った勢いでやっただけだ。
僕は必死に笑った。
泣いていいよと言って欲しかった。
誰でもいい。
僕にそう言ってくれ。
「やっぱり、先生が…」
嘘だ。
「先生が、いいな」
嘘だ。
本気だったよ。好きだったよ。
って言ったら、高梨は困るでしょ。
「先生が好きなんだ」
…泣いていいよと言ってくれ…
「そうか」と高梨は言った。
「じゃあ、先生のとこに行くのか」
「…うん」
「そうか」
高梨は僕に鍵と、ステージで貰ったお金と、服をくれた。
「ここは自由に使っていいから、もう使わないと思ったら鍵は麗子さんに渡して。
その金は全部お前のだから。あと服はなんでも、好きなの持ってっていい」
高梨はそう言った。
「…ありがとう」
「とんでもない」
高梨は優しく笑って僕を見た。
そして部屋を出ていった。
あ、終わった…
やっぱり、最後までして貰えば良かった。
やるだけやって、気持ちよくなって。
そしたら、うわべだけでも、好きっていってもらえたかもしれない…
そしたら…もうちょっと未練、なくせたかもしれないのに。
…僕は馬鹿だ。
わかってる。
わかってる。
わかってるけど。
こんなに馬鹿だなんて、
流石に笑っちゃうよな…
僕はやっと泣けた。
高梨が居なくなって。
「うっ…う…」
声を出して泣いてみた。
僕が可哀想?
いや、高梨の方が可哀想だ。
僕なんか、泣くのは慣れてるし。
傷つくのも慣れてるし。
一人でいるのも慣れてる。
苦しいのも慣れてる。
嫌われるのも慣れてる。
でも、高梨は両親を亡くした。
僕は両親がいるのに、二人に迷惑をかけてばかりだった…
高梨みたいに、努力なんてしてこなかった。
恵まれてた。
《君は恵まれてるよなぁ》
…恵まれてたんだ。
僕は文句ばっかり言ってた。
誰も理解してくれないとか、
愛してくれないとか、
いじめられてるとか。
だから何だよ…