触って、七瀬。ー青い冬ー
第8章 初夜の残像
「だから…何だよ…」
愛して欲しい?
労って欲しい?
慰めて欲しい?
かわいそうだなって言って欲しい?
おめでとう。
高梨にこうやって甘やかしてもらって、
良かったじゃないか。
こんな立派な場所に連れてきてもらって。
いじめられてて良かった。
そうじゃなきゃ高梨は僕を助けてくれなかっただろう。
…いや、助けたかな。
だって誰にでも優しいから。
高梨は誰にでも優しい。
「僕は…」
僕は最初、高梨を嫌ってたな。
完璧すぎるとかいって。
高梨はただ努力家で、最初からなんでもできたわけじゃない。
勉強もバスケも、誰よりも頑張ったに違いない。
僕は、やれと言われただけだ。
ピアノも勉強も。
やれば、褒めてもらえたから。
先生が褒めてくれたから。
でも高梨には褒めてくれる両親がいない。
僕には、褒めてくれなくても両親はいた。
高梨には家もなかった。
僕にはあんなに広い家があった。
高梨は金もなかった。
今は1日に数百万稼いでいる。
でも僕は親の金で生きてきた。
…本気だったよ、なんて言わなくてよかった。
恥ずかしい。
こんな、釣り合うはずもない僕が、
本気だなんて、
笑っちゃうよな。
笑って欲しい。
笑って欲しかった。
でも高梨はきっと、笑わないだろう。
絶対笑わない。
ああ、もう消えてしまいたい、
消えて、こんな感情も、
なかったことにしてしまいたい。
いっそ、高梨と出会わなければ。
僕は誰も愛さず、
こうして苦しむこともなく、
あの恵まれた家で、
不満でも言いながら、
幸せだったのかもしれない…
幸せって
誰が作った言葉?
幸せなんて
どこにあった?
幸せって
そんなに素晴らしいものですか?
神様って
誰が作った言葉?
神様は
本当にいますか?
いたとしたら、
ぶっ殺したい。
そして、僕なんかなんで創り出したのか、
問いただしたい。
僕は要らない…
何も要らない。
命さえいらない。
もう何も要らない、
望まない。
だから、どうか楽に。
楽にして欲しい。
もう、これ以上自分を嫌いになりたくない。
もう泣きたくない…