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触って、七瀬。ー青い冬ー

第8章 初夜の残像



「意地悪で」




《今の声、面白い》

《いじめられて気持ちいい?》


僕に触れる時、高梨は裏の顔を覗かせる。
酔った高梨はただの狼だし、体力半端ないし、…大っきいし。

…なんだ、昨日の夜、僕はちゃんと楽しんでたんだ。

そう思うと余計虚しい。


「でも、彼女にはもっといろんな顔見せてるんだろうなぁって」


僕は笑った。晴れ晴れとした空も、僕を嘲笑しているようだった。


「僕はその顔をきっと、この先もずっと、見られないんだろうなぁって」


僕は男だった。


高梨は男同士、女同士でも、愛は愛だと言った。

だけど、だから高梨が僕を好きになるかって、それとはまた別。

性別とか越えたところで、もし高梨が男でも好きになるとして、じゃあ男の中から僕を選ぶのかといえば…


「…なんで、
好きになっちゃったんですかね」

報われるわけでもないし、
想いを伝えられるわけでもないし、
寂しさと虚しさに押しつぶされて、
悲しくなるだけなのに。

恋愛感情なんて機能、なんでくっつけちゃったかな。

繁殖したいならすればいい。
性欲さえあれば好きなだけ、誰とでもやって、子供作ればいい。
それで人類、安定じゃないか。

男が男を好きになる理由、
ないじゃないか。
だから、同性愛は偏見の対象にもなってしまう。

こんなことになるなら、恋愛感情なんかいらなかった。

勝手に好きになって勝手に傷ついて、
これじゃタダのバカだ。

僕はきっとおもちゃにされてる。
高梨だけじゃなく、神様とか仏様とか、よくわからないものに遊ばれている。

好きになっちゃったんだー、大変だね、
とか言って笑ってる。

お前のせいだよ!と殴り飛ばしたくなる。

別に、好きで生まれてきたんじゃない。

敢えて男を好きになろうとしたんじゃない。

いじめられようとしたわけじゃない。

苦しもうとしたわけじゃない。


じゃあなんで僕は、こうなった?





「人を好きになれるって、良いね」



「え?」


翔太さんはそう言った。


「…全然、良くないです」


翔太さんは笑った。



「俺は恋、してみたいな」



翔太さんは、恋をしたことがない。

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