触って、七瀬。ー青い冬ー
第8章 初夜の残像
「俺はね、恋したことないんだ」
翔太さんが言って、僕は黙った。
「今まで色んな子に告白されて、
付き合おって言われて…
で、良いよとは言うんだけど、
付き合うってなにか分からなくてさ」
翔太さんはかっこいい。
大人の色気があるイケメン。
そりゃあ、モテて当たり前だし、
こんなに優しくて話しやすいし。
でも翔太さんは好かれても、その想いに応えられない。
「付き合うってなんだ?と思って色々考えたり調べたりしたんだけど、あんまりわかんなかったんだよね」
「僕もそんなにわかりませんけど」
「で、考えた結果、手繋ぐ、ハグする、とかキスとかセックスとかする、そういう関係かなーと思った」
「たしかに間違ってはないかも」
「だから、俺は付き合うイコール、セックスだと思ってやりまくったわけね。
性欲はあったから」
「はぁ…」
「でも、付き合う子達に、違う、そうじゃない、気持ちが足りない、愛情を感じないとか散々言われて」
翔太さんはため息をついた。
「そりゃそうなりますね」
「でもそもそも好きとかわかんないし、
恋愛感情?とか、一緒にいたいとか、その子のために悲しい思いしたりとか苦しい思いしたりとか、全くないんだよ。
今夕紀が言ってたことも、殆ど経験ないからへぇーそんなこと思うのかって感じで」
「…相談する相手間違えたみたいです」
「悲しいこと言うなよ〜」
「本当に、一度もないんですか?
好きになったけど気づかなかっただけじゃなくて?」
「うーん、どうだろうね。
人見てドキドキとかしたことない」
「そうなんだ…」
「だからさ、こんなこと俺に言われてもって思うかもしれないけど。
もうちょっと楽に、楽しんでみたら?
好きになるって、良いことじゃん。
俺みたいに相手を性欲処理に使ってるんじゃないんだから」
「性欲処理に使ってるんですか…」
「だって恋愛感情ないんだから仕方ないだろ。これでも努力してるんだよ。
お店で働くようになったのも、沢山の人と経験すれば、恋愛感情が何か少しはわかるかもしれないと思ったからなんだよ」
「そうなんですね」
「逆に、恋愛感情知ってたらまともにこんな仕事できないかもしれないな。
愛のあるセックスとか楽しそう」
「…そうですね」