触って、七瀬。ー青い冬ー
第8章 初夜の残像
わかってはいたけど、わかりきってたことだけど、翔太さんは僕と愛のあるセックスなんてできないのだ。
だからこそ良いとおもっていたのに、
はっきりそう言われてしまうと少し寂しい。
「でも、夕紀は今までの人とは少し違うかも」
「なにがですか?」
「相性いいなーと思うし、何より夕紀は反応がいいから楽しいし、身体えろいし、もっとしたい、触りたいって初めて思った。
これ、俺の中ですごい進歩だと思う」
すごい恥ずかしいこと言われてる。
でも嬉しい。
「自分から名刺渡したのも夕紀が初めてなんだよ」
とても嬉しい。
「だから、もしその子のことで苦しいんだったら、俺とやってストレス解消してくれて構わないから。いつでも相手するよ」
「ありがとう…ございます?」
喜んでいいのかな、これは。
「で、どうする?」
車が止まった。
「何ですか?」
「やる?」
車は見覚えのあるビルの前で止まっていた。
「ここって、あのお店ですよね…」
葉山先生と来たビルだった。
“ レストラン ”があるところ。
「このビルに部屋持ってるから、ここが俺の家なの」
「なるほど…」
「行こっか」
翔太さんは車を降り、扉を開けて僕の手を引いた。
僕は引っ張り出されて車を降りる。
人通りの多い歩道を、二人で歩く。
翔太さんは僕の肩に手を回し、顔を近づけた。
「夕紀、なんか視線感じない?」
「そうですか?」
「みんな見てるよ」
そう言われて辺りを見回すと、
スーツを着た人たちが道を歩いて行くのが見える。
たしかに見られてるような気もするけど、
それは多分翔太さんのせいだ。
「すっごい興奮しない?」
「しないです」
「釣れないなー夕紀は」
そう言って、翔太さんは僕を歩道の真ん中に連れて行った。
「ここならどう?目立ってるどころじゃないよ。全員見てるよ」
「なにするつもりですか?」
翔太さんは僕の腰に手を回し、向かい合った。
「愛のあるキス」
「ないでしょ、愛」
「夕紀は違うって言ったでしょ?
愛、俺に教えてよ」
「っ…」
翔太さんが僕の耳に言った。
愛を知らないくせに、こんな風に口説けるなんてずるい。