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触って、七瀬。ー青い冬ー

第8章 初夜の残像



「そういうこと、平気で言うから女の子が怒るんですよ」

「今のは本心なんだけどなぁ。
ほら、早く」

翔太さんが目を閉じて僕に顔を近づける。

見られてる…

翔太さんの後ろから歩いて来てじろじろ見てる人、僕を追い越して振り向く人。

「夕紀」

翔太さんの唇は厚い。
その唇に翻弄された人々は数え切れないんだろう。

そんな人に僕は違うと言われて、
こんなに幸せなことない。

もしかしたら、僕の運命の相手はこの人ですか?

だとしたら…





僕はかかとを浮かせて、翔太さんの首に手をかけた。

「翔太さん、僕のこと…愛せますか?」

翔太さんは目を閉じたままにっと笑った。

「んー、それは君のキス次第」


思わせぶりなこと言ってくれるなぁ。


「…いいですよ。受けて立ちましょう」


僕はかかとをもっと上げて、
翔太さんの唇にキスをした。


目を閉じた。


街の音が聞こえる。


車のエンジン音、ヒールの踵が鳴る音、
信号の音、店の音楽。

そんな音の中で、僕達は静かに唇を合わせた。





僕達は自由だった。


僕は行くあてもなくて
学校をサボってる。

翔太さんは夜の仕事で性欲を満たして
生活してる。



僕達は、はみ出し者?
落ちこぼれ?不適合?





うん、どうでもいい。

どうでもいいや。




誰がどう言っても、ちゃんとしろって怒られても。きちんと、みんなみたいに生きなさいって言われても。何かにならなくちゃと焦っても。




僕はもう、優等生のフリなんかしない。




翔太さんがもし僕を愛してくれたら…
それだけで充分。

人生捨てたもんじゃないんだって
思えたら…


僕だって、ちゃんと愛して、愛されるんだって思えたら…


それだけで、何もいらない。



「ん…ん」


翔太さんは僕の腕を掴んで、首に抱きつかせた。



翔太さんのキスは甘いものじゃない。
熱いもの。


熱くて燃えてる。
ずっとしてたら焼け焦げて僕は死ぬ。


消えそうで怖い、
儚くて、今にも壊れそうな、
仮初めの愛だけど。


それでも翔太さんはちゃんと応えてくれた。


「はぁっ…」


翔太さんは唇を離した。

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