触って、七瀬。ー青い冬ー
第8章 初夜の残像
「…夕紀、無理しないで、疲れたらちゃんと言っていいからね」
夕紀はうなづいて言った。
「でも、気持ちよくて疲れたとかよく分かんなくなっちゃうから」
夕紀は布団の中に潜り込んだ。
「夕紀」
「はい?」
「俺、君が思ってるほどちゃんとしてないし、…頼れる大人ではないよ」
俺は言っていて少し悲しくなった。
俺はこんなとこで、こんな幼い子として、
夜には好きでもない女の子を抱いて、
そんな暮らしをしている。
それで多すぎるくらい金をもらっている。
こんな純粋な子に、俺はどうして頼ってもらっているのだろう。
夕紀は可笑しそうに笑った。
「そんなに僕の言葉を難しく考えないで下さい。ただ、翔太さんが好きだから言っただけです」
好きだから、なんて夕紀は言った。
でも、好きだから、という言葉がわからない。
また深く考えてしまいそうだ。
「翔太さんといると安心するから、ってことです」
夕紀は大人だった。
年齢は17歳、青春の真っ盛り。
しかし、その顔はいつもどこか冷めたような、青春なんて知らないような表情をしている。
「夕紀の家族って、どんな感じの人達?」
こんな子が育つ家庭はどんなものか、
知りたい。
俺にも家族は居たが、遠く離れてしまった。
こんな風に大人びていて、上品な雰囲気のある子供は、どんな家庭で育つのだろう。
「両親は僕に無関心でした」
「無関心?」
夕紀はうなづいた。
布団から覗く肌は雪のようだった。
「父は弁護士で母は医者で、
忙しそうに毎日を過ごしてました。
僕は多分、どっちかになることを望まれてると思います。
僕はどっちも嫌で、いつも反抗しようとして…できてなかったんですけどね」
夕紀は笑った。
「朱鷺和学園っていう、医者を目指す子が多くて、進学実績のある高校にいるんですけど。
僕はそこに強制的に入れられて、
なんとか勉強を頑張って、とにかく父の機嫌を損なわないようにして生きてました」
父は厳しかった。
そして、アメはなし。
ムチ、ムチ、ムチ。
僕は当然、嫌がった。
でも、もし抵抗したらまたムチだ。
抵抗しなくたってムチだ。
だったら、大人しくしてた方が、幾分か楽なんじゃないか?