触って、七瀬。ー青い冬ー
第9章 木村千佐都の不覚
「俺…木村さんのこと好きです」
私は別に驚かない。
告白なんて慣れたものだし、
私は可愛いし。
いじめられてるのは男子は知らない。
あの馬鹿な女は、男に嫌われるのが一番怖いみたいだし。
男子は私をいじめたりしないし、逆に
私をちやほやしてくれて、
私を好いてくれる。
私はそれで満足だった。
嫉妬してる女達が馬鹿みたいで面白かった。
私は何も頑張ってない。
痩せようともしてないし、
メイクしたり肌のケアをしたり、
そんな努力もほとんどしてない。
でも私は全てを持ってた。
だから、努力なんて必要なくて、
自然に誰かが私を好きになる。
私のこの見た目のおかげ。
私は嫉妬される側、あなた達は嫉妬する側。
嫉妬されるって案外気持ちいい。
私のこと羨ましいでしょ?
悔しがってるとこ見せてよ。
私はその顔を赤らめている男子を慰めてあげる。
「ごめんなさい」
謝るのが快感だった。
ごめんね、あなたは私のことをずっと目で追っていて、毎晩私のことを考えてたんでしょ?
でも私はあなたのものには絶対ならない。
この先も私はあなたのことを好きでいさせるつもりだけど、それでもごめんね。
結局私の日常はこんな感じで平和に続く。
いじめなんて気にしないし、
とにかく私はモテたし、
それで十分。
恋愛に興味ないし、
この先結婚するつもりもない。
男なんていらない。
私は男に困らないだろうし、結婚なんて秒でできるだろう。
だからいらない。
簡単に手に入るものなんていらない、って捨てるのが気持ちいい。
でもなんで?
私はもう一生会わないと思ってたその人に、会ってしまった。
「初めまして、2年7組高梨 伊織です」
私は驚いて拍手をするのを忘れていた。
生徒会室で一人、その人とたった二人だけになったみたいに、私はその人のことをずっと見ているしかなかった。
「木村先輩?」
となりに座っていた後輩が、私に声をかけたくれたおかげで、ようやく我に帰った。
私はずっと見ていたその人から目を逸らした。
なんで?なんでこの人がここにいるの?
私はその時、軽いパニック状態だった。
…でも、あっちは私のことを忘れてるはずだ。
大丈夫、心配しなくていい。
「なんでもない、大丈夫」
私はそう言って席を立った。