触って、七瀬。ー青い冬ー
第9章 木村千佐都の不覚
私は高梨伊織が円形のテーブルの前に腰掛けたのを横目に見ながら、黒板の前に出た。
「それじゃあ、新しい役員の紹介も終わったので、今日の議題について話し合いましょう。
まず、目安箱に入っていた意見から目を通して行きましょうか」
私は後輩から木でできた目安箱を受け取って、鍵を開けた。
「…」
…まぁ、いつかこうなるだろうとは思ってた。
その中に入っていたのは、私への誹謗中傷が書かれた意見書。
私は生徒会長にふさわしくないだとか、
私はいつもテストでカンニングしてるだとか、くだらないもの。
別に、気にするほどのものじゃない。
私は、その紙の束を箱の中に押し込めて鍵を閉めた。
「木村先輩?どうしたんですか」
後輩はそう言った。
私は少し俯いたまま、どうしようか考えた。
もしかして、私がいじめられてることはもうここにいる役員のみんなにばれてる?
目だけで部屋の中を見ると、わかっているような表情をしている人はいない。
良かった、多分ばれてない。
私はいじめについて何も心配してないし、
傷ついても落ち込んでもいないけど、
いじめられてることを誰かに知られるのが嫌で仕方なかった。
同じクラスの女子は共犯だから別に気にしてないけど、それ以上の人にその事を知られたら、私のイメージが悪くなる。
完璧なイメージに、シミがつく。
可哀想なんて思われる筋合いないし、
私は可哀想なんかじゃない。
だから私はもう一度考えた。
このまま、何もなかったことにしよう。
「今日はあまり意見書が入ってなかったみたい。次の回に、また見ましょう」
私はそう言って笑った。
誰も疑ってない。
大丈夫。
私はまだ、完璧な生徒会長、千佐都。
そのイメージを誰にも汚させない。
あの馬鹿な佐藤絵美なんかに。
「それじゃあ、解散ね」
生徒会が無事に終わった。
「先輩、箱戻してきます」
「いいよ、私戻すから」
後輩も全く疑ってない。
いつものように、私を憧れの目で見てる。
私は何にも汚されない、完璧な人間。
憧れの眼差しがないと、私は生きていけない。
生徒会室には誰もいなくなった。
17時、日が傾いて、オレンジ色の光がうっすらと差し込んできた。
ああ、一年ってなんて早いんだろう。