触って、七瀬。ー青い冬ー
第9章 木村千佐都の不覚
私はそんな美しい景色の中で、汚らわしい目安箱の鍵を開けた。
人って、なんで干渉しようとするんだろう。
字体が全て違うから、これはクラスの女子一人一人が書いたものに違いないとわかった。
今まで仲良くしていたみんなが、一瞬で敵に変わったことが少しだけ胸をざわつかせた。
人間ってこんなに愚かだったっけ。
一つ一つ読んでいった。
私は可愛くないって?
余計なお世話。
男子と不純な交遊をしてる?
ありえない、何もわかってない。
必死に好かれようとして頑張ってるのに、うざがられてて可哀想…?
私が好かれてないなんて、嘘に決まってる。たしかに、佐藤絵美の取り巻きには嫌われてるかもね。
でも、私はみんなの憧れでしょ?
そうでしょ?
…いけない。
こんなくだらない人たちのために、こんなに考え込む必要ないじゃない。
だけど、その意見書を書いたのは、今までで一番仲が良かった子だった。
親友だとさえ思ってた。
そっか…、私ってこの子にうざがられてたんだ。
申し訳なかった。
気づかないで、勝手に親友だと思い込んで、毎日平気で話しかけちゃってた。
ごめんなさい、
と謝りながらその紙を畳んだ。
ほかのものを読む気が失せて、
全部、中が読めないようにきちんと折っていった。
これだけの紙が粉々にちぎられてたら、
怪しまれるかもしれないし…。
折っていて、こんなにたくさん私に対して不満があったんだと気がついた。
私って…
《可哀想》
丁寧に折っていた紙をぐしゃぐしゃに丸めて投げた。
生徒会室の隅に転がっていった。
私、何かいけないことしたかな。
《千佐都、あなたはよく頑張ってるわね》
お母さんは私をよく褒めてくれた。
よくかわいがってくれて、
小さい頃から塾に通わせてくれて、
こんなに私は優秀になった。
私の人生には何一つ欠点がない。
家族円満だし、両親に不満なことは何一つなく、感謝しかしてない。
最高の親。
私にこんなに可愛い顔を授けてくれた。
でも、なんで私は可哀想なんて思われなきゃいけないの?
何で?
なんで嫌われなきゃいけないの?
…泣いたりしない。
私はこんなことで泣いたりしない。
泣いたらあの馬鹿に負ける。
私は泣かなかった。
何があっても。