触って、七瀬。ー青い冬ー
第9章 木村千佐都の不覚
私はそんな、些細な抵抗しかできない。
高梨伊織は、私の幼馴染だ。
高校入学を機にやっと離れられたと思った。でも、伊織はわざわざここに編入してきた。
理由は知らないけど、とにかく、どれだけ運が悪いんだろうと思った。
「さっき、無理して笑ってただろ」
さっき?
「目安箱開けた時。
なんかあったんだろ」
伊織はいつも余計なことばっかり言った。
私に干渉してきた。
それが嫌だった。
でも、なんでそんなに私が伊織を嫌だと思わないといけないかって言ったら、
「なんかあったなら話聞くけど」
私が、伊織を好きだったから。
私のことを見抜いてしまう伊織が、単純にすごいって思った。
私が作り笑いをしたら絶対気づくし、
そういうのやめろって私を叱った。
伊織は私の憧れだった。
伊織はいつもみんなの中心にいて、
気づいたら視線を集めていて、
私も、気づかないうちに伊織を見ていた。
幼い頃からずっと見ていた。
お父さんやお母さんが亡くなった時も、側で見ていた。
“ 千佐都、俺、どうしたらいい?
もう、泣くの疲れた ”
伊織がそう言って笑った時、
私は泣くしかなかった。
伊織がこんなに苦しむなんて、
なんてひどい世界だろう。
伊織は良い子で、優しくて、
私みたいに、ひねくれてない。
私みたいに、汚れてない。
それなのに、どうしてそんな不幸が、伊織の元に降り注いでしまったんだろう。
伊織は弱っている時、私を頼ってくれた。
それって、思い上がっていいのかな、なんて思ってた。
でも伊織はやっぱり、私のものになんてならなくて、いつも私じゃない誰かが隣で伊織を支えていた。
「…なんでここに入ったのよ」
私はどうだっていいことを聞いた。
それで、伊織が私の話をやめてくれると思って。
「人探し」
伊織はそう言った。
昔から、目が本当に綺麗だった。
「人って…」
「お前じゃないけど」
伊織がからかうように言った。
顔が赤くなった。
「調子乗んないでよ」
伊織は冗談を言ってるのか、本気で言ってるのか分からないことが多い。