触って、七瀬。ー青い冬ー
第9章 木村千佐都の不覚
「お前は確かに、死ぬほど頑張ってるよ。
顔色みたり愛想良くしたり、
相手を持ち上げたり自分は落としたり」
「俺の触れて欲しくない部分に触れようとしたのは理解してるんだろ?
それで謝って、」
「謝ったのがいけないの?
それで怒ってるの?」
「謝れば良いと思ってるだろ」
「謝ればそれでお前の体裁は保たれる。
だって謝ったんだもんな」
「俺は怒ってなかった。
気になるのもわかるし、話を途中で切られたら知りたいと思うのは当たり前。
お前が食い下がろうとした時、
俺は話せない理由を伝えようとしただけ」
「聞こうとしたのは悪くない。
謝るのも悪くない。
でも分かるんだよ。
昔から、お前の普段の態度見てて」
「自分が一番優れてるとか相手は自分より下だとか思ってんのも。
謙遜も褒め言葉も自分のため、謝罪は本心じゃない。
自分がいつも正しいと思ってる。
人の意見なんか、尊重するふりして聞いておいて、実際何も聞いてない。
聞く気は元々ない。
嫌われないように、自分の価値とか体裁を気にしながら、自信とプライドと自尊心と自己顕示欲だけはありふれてるくせに、
嫌われるのが、一人になるのが怖くて、
哀れに、惨めになるのが嫌で、
好かれようとしてて、
それが言葉の端々から見える。
思ってないことばっかり言って、
機嫌取るようなことばっかして、
好かれてると思い込む理由作って、
満足してる」
「謝ったのは悪いと思ったから…」
「お前は、そうだったかもな。
だけど、普通に考えて本心と思われるか?
朝から晩まで凝りもせず、
猫かぶりのわがままで傲慢な、プライド高くて人を見下してるぶりっ子ナルシストの優等生もどきが
“ごめんなさい”
だって」
伊織の顔を手の平で叩いた。
「なんであんたにそこまで言われなきゃなんないの」
「なんで?嫌われるのが怖いなんてみんな同じじゃない。みんな嘘つきながら仲良しごっこして、それで世の中回ってんじゃないの?本音話して、それでみんな楽しいの?じゃあ私は、本音言っても、嘘言っても、どのみち嫌われるだけなんじゃ、
どうしたらいいの?
私は友達なんかいないの。
小さい頃から、親友なんかいないの。
ずっと一人なの。
自分でもわかってるの。
おかしいってわかってるし