触って、七瀬。ー青い冬ー
第9章 木村千佐都の不覚
私はおかしいの。
みんな私に近づかないし、
嫌われてるの!
嫌われてるけど、
嫌われてますけど、
だから少しでも嫌われないように、
こうやって努力してんじゃない!
それで、それさえもそんな風に言われたら、私はどうすればいいの?
もう生きていけないじゃない。
生きていけないし、私の性格なんか治るものじゃない!
人を見下して、自分が一番だって思うのが、何がいけないの?
私が一番なの、私が一番私が好きで私が一番なの!
どうしたらいいの?
どうしたらいいのか教えてよ!」
私は嫌いだった。
自分のことが、誰よりも嫌いだった。
自分が大好きな自分が大嫌いだった。
でもやっぱり、誰にも好かれない自分を、
自分で認めてあげるしかなくて、
どんどんねじれてひねくれていった。
いつからこんなに、息苦しくなったんだろう。
私は誰かの前で泣いたりしない。
でも、気づいたら涙が出てた。
これは悲しいから泣いてるんじゃない。
「私はわからないから、
私は人の気持ちも、
自分の本心もわからないから」
好きな自分も、嫌いな自分も
全部自分。
私は結局、どっちなの?
「わからないから」
私は今日、初めて自分が醜いと思った。
「わからないから、こうやって生きていくしかなかったの」
嫌いな自分を肯定するためには、
理想に近づけるためには、
ありもしない自分を作り上げるしかなかった。
それはおかしいってわかってて、
でもそれ以外にどうすればいいかわからなかった。
伊織はずっと、叩かれた頬を抑えながら私の話を聞いていた。
私は口を閉じて、涙でぐちゃぐちゃのひどい顔で伊織を睨んでいた 。
伊織はずっと無表情で、どちらが先にまた口を開くか、どんな言葉で戦うか探っているように見えた。
私は伊織を睨み続けた。
伊織は綺麗な顔のままで、私を分析でもしているみたいに私を見ていた。
「…ひっでぇ顔」
伊織が無表情のまま言った。
夕日が沈み、外が真っ暗になった。
「もう一回叩いてほしいの?」
私は鼻声でそう言った。
伊織は黙って私を見ていた。
「…ぷっ」
伊織が耐えかねたように吹き出した。
昔と変わらない顔で、くっくっと肩を揺らして笑って私を見ている。
「本当に殴るから」
私が拳をつくると、伊織は笑うのをやめた。