触って、七瀬。ー青い冬ー
第9章 木村千佐都の不覚
目安箱の鍵、って意味?
「あんたも見るつもりなの」
「ああ、感謝しろ」
伊織は差し出した手を私の頭に置いた。
「絶対見ないで!」
「ったく面倒くせぇ本当お前」
伊織は私から箱を奪って机の上に置いた。
「何…」
伊織は私のブレザーのポケットに手を入れた。
「ちょっと」
「お前が鍵出さないのが悪い」
伊織を突き飛ばそうとして胸を押し返しても、びくともしない。当たり前だけど。
伊織の手はもう片方のポケットを探る。
「どこやったんだよ」
「絶対言わないから」
「恩を仇で返すな」
「恩なんか貰ってないし頼んでない」
伊織がとても近くにいた。
こんな状況で、口喧嘩してるのに、
私の頭の中は伊織の甘い香りでいっぱいだった。
「そうかもな。でもこのままだとお前、
死ぬよ」
伊織はスカートのポケットにも手を伸ばした。
「や、めてってば」
伊織は私のことを女と思ってない。
自分の冷たい手が私を何度困らせたかも知らない。
その手がどれだけ大きいか。
ポケットに入った手が、腿をかすめる。
「本当にやめて」
どういうつもり。
私を散々貶しておいて、私をまだ自分の元に引き止めておきたいの?
…なんて、私が勝手に好きなだけ。
「黙ってれば可愛い」
嘘に決まってる。
「嬉しくない」
伊織は手を止めた。
スカートのポケットの中。
「嬉しくない?」
「うん、嬉しくない」
伊織は昔から女子の扱いが上手い。
だからモテた。
他の男みたいに、上部だけ良い顔しようとか、女子だからって優しくしたりしない。
男女、同じように接する。
だから、伊織からみたら女も男もただの友達で、女からすればただの友達なんて思えない。この顔で、話しやすくて、決して良くない性格でも面倒見は良くて…
「本音言っていい?」
伊織が突然小さい声で言った。
「何よ」
「お前は馬鹿な男から見れば可愛いし、
良い子で、スタイル良くて最高のオカズ」
「でしょうね」
「でも俺から見たらただの性格ブスで可愛くない奴」
スカートが膝の上で揺れてる。
「なんとでも言えば」
「ここから問題」
伊織の手がポケットから出る。
代わりに腿に手の甲が当たる。
「じゃあ俺は今なんで欲情してる?」
伊織はモテた。だから遊んでた。
「っ…知らない馬鹿だから」