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触って、七瀬。ー青い冬ー

第10章 夜明けの水平線



きゅっ、きゅっ


靴の裏が床を擦る音。


「高梨パス!」

走りながら、ボールが飛んでくる。

「よっしゃ」

しっかりキャッチすると、目の前にはもうゴールがある。

練習どおり、いける。
入る。


しゅっ、とボールから手を離す。


ピーッ

得点表に点数が加わる。

「っしゃあ」

「高梨ナイス!」

笑ってハイタッチする。

汗臭いコートで、何十分も走り回っていた。

「15分休憩!」


先輩の声で、コートから両チームがはける。


「あーきっつ」

2週間経って、足はようやく本調子を取り戻していた。
骨に影響はなかったものの、強く踏み潰された指はかなり痛んだ。

少し残る鈍痛を引きずりながら、体育館の外の階段に腰掛けた。
突然冷たい風が体を冷やした。

体育館の中は蒸し暑くて、外のカラカラした寒気とはまるで違う世界だった。

ガチャ、と扉が開いて汗を拭いながらまた一人が外に出てきた。

「お、みとやん」

「高梨か」

「クソ寒いなここ」

「それがいいんだろ」

「まーな」

「足、無理すんなよ。
まだ2年なんだし」

「おう」

タオルを投げられ、受け取る。
こいつはチームでは一番仲が良い、
同い年の三刀屋(ミトヤ)。

「状態は大丈夫か?」

三刀屋は俺の投げ出された足を見た。

「試合に支障ないくらいにはな」

「犯人、香田…なんつったっけ」

「香田 千尋」

ペットボトルの水を勢いよく流し込んだ。

「ちひろぉ?はっ、名前だけは立派だな」

三刀屋に限らず、ウチのチームでは香田は嫌われている。当たり前だ。

「…そうだな」

つま先を揉んでマッサージする。

「反応薄っ!お前の仇だろ」

三刀屋は仲間意識が強く、他人の敵も自分の敵にしてしまいやすい。

「いや、俺も大っ嫌いだけど」

「なんだよ」

まだ18時なのに、空はもう眠そうな顔でこっちを見てくる。うっすら月が出ている、透き通った空。

「…気持ちわかるし」

「はぁあぁあ?お前意味不明。2週間練習
できなくされたんだぞ?お前いないとウチのメンバーも気分落ち込むし。あんな奴の気持ちわかんねぇから!」

「だから、死ねばいいとは思うけど」

俺は立ち上がり、体育館の扉に手をかけた。

「やっぱ同情する」

中へ入って扉を閉める。

「おい高梨!開けろ!」



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