触って、七瀬。ー青い冬ー
第10章 夜明けの水平線
あのメモの通り、もし俺達について何か良くない噂が回ってるのなら、早く根を断ちたい。
このままじゃ、七瀬は学校に戻ってこれなくなってしまう。
今、七瀬は両親に状況説明もできていないだろう。
そもそも、両親は何やってんだ?
1週間も帰らなかったら、捜索願くらい出してもいい。
先生も特に話は聞いていなくて、ただ休みの連絡は来るらしい。
「どういうことだよ…」
出席日数が足りなくなって留年、
最悪、いろいろとバレて退学?
もありえない話じゃない。
そうなれば、七瀬との接点は無くなる。
「ふざけんな」
何のためにこんな所に入学したんだよ。
遡ったら、それはもう10年程前のことだ。
……
『…誰もいない、よし』
俺は小さい頃、よく教会に行っていた。
母親が小さい頃キリスト教系の幼稚園に通っていたことがきっかけで、俺も教会に連れて行かれることはあった。
そこで聖歌隊に合わせてピアノを弾く人を見て、俺も弾きたいと思った。
ピアノなんて興味なかったのに、その教会のピアノはとても綺麗なグランドピアノで、触りたいと思った。ただの好奇心とも言える。
母親は俺の願いを聞いて、聖歌隊に入らせた。どんなことをしていたのか記憶はないけど、とにかく歌ったりピアノを弾いたり、楽しかった。
そのおかげで、今のステージでもピアノや歌などたくさんのリクエストに応えられる。
俺に神々しい場所は全く似合わないけど、
音楽があったから気にならなかった。
そこで、もう一つすごい出会いがあった。
人生で一番大切な出会いだ。
その日、俺は教会のピアノを弾いていた。
練習は許されていたが、指定された曲以外は弾かないのが約束だった。
しかし、誰もいない時には意味のない約束だと思って、好きな曲を弾いた。
家にはピアノがなかったから、そこは練習する唯一の場所だったのだ。
そこで、現れたあいつ。
『…それ、なんて曲?』
『うわっ!』
誰もいないと思っていたのに、高い声が天井に響いた。
教会の後ろの方で、恥ずかしそうに立っている子がいた。
『…月の光…だけど』
春の、暖かい水曜日の午後だった。
高い日は、教会のステンドグラスを透かして美しく差し込む。
『いい曲だね』
その子はよっぽど恥ずかしがりだったみたいだ。