触って、七瀬。ー青い冬ー
第10章 夜明けの水平線
……
「約束って、それ?」
少し前、千佐都が生徒会の用事だと言って、昼休みに俺を呼び出した。もちろん、生徒会の用事なんかではなかった。
「ああ。だから、そいつのピアノ聴いてやらないといけないの」
屋上で二人で柵に寄りかかっていた。
「伊織も意外とロマンチストねー」
「っせぇな」
「ななせゆうきって、同姓同名だった子がいたの?」
「居た…けど、男だったっていう」
あの日あった、涙目の子は男だったか?
記憶では女の子だったと認識している。
「なんだ」
千佐都は安心したのか、俺の腕に手を回した。
「気持ち悪いから離れろ」
腕を振り払った。
「…ねぇ、本当に反省してんの?」
反省、というのは、前のヤり逃げのことだ。
「してるって」
実際、してない。千佐都の性格の悪さに比べたら、なんてことない、と思っている。
「じゃあキスして」
「嫌だ」
「しないと学校中にあんたはヤリチンだってバラしてやるわよ」
「それは勘弁」
「否定しなさいよ」
「事実だし。
バレたら警戒されてヤれなくなる」
「…最低。早く」
「はぁ…」
嫌々、キスをした。
まぁ、仕方ない。
…それが見られてるとは思ってなかったけど。
「で?これからどうするの」
「とりあえず様子見。七瀬夕紀がその子の可能性もなくはない」
「そうね」
千佐都はそうであることを望んでるみたいだった。こいつの性格はしばらく治らない。
……
それで、肝心の七瀬夕紀はどんな奴だったかって…
確かに、女装したら女に見えなくもないくらいの可愛い顔をした奴だった。
「七瀬君白ーい、羨ましい〜」
「綺麗な顔だよねー」
「女子より可愛い〜」
「それはなーい」
一部の女子には大人気だったが、
男らしさがないとか無口だとかで、
モテるタイプではなかったかもしれない。
俺はこいつの幼い姿を女と思っていたのだろうか。
…うん、十分有り得るな…
違うのは、眼鏡をしているという点だけ。
そこで確かめようとしたのだが、
七瀬夕紀はあまりに無口で自分の話をしたがらなかった。
話しかけても返事は一言。
これは、もし同一人物だとしても聞き出すのは難しい。
「今度の放課後空いてる?」
それが俺の最初の試み。
そうしたら驚いたことに、七瀬は月の光を完璧に弾いた。