触って、七瀬。ー青い冬ー
第10章 夜明けの水平線
でも、それだけじゃ同一人物だと確定するには不十分だった。
この世界に、ななせゆうきという名前で、月の光が弾ける子が他にいないわけじゃない。
でも、俺の中では殆ど分かっていた。
「ピアノは嫌いなんだ」
七瀬はピアノを目の前にしてそう言った。
その言葉、聞いたことがあった。
《そんなに好きじゃない》
どうしようか。
俺は、ななせゆうきに会って何がしたかったんだっけ?
名前を教えるって言ったけど、こいつは既に知ってる。
じゃあ、もう何もするべきことはないじゃないか。
七瀬は当然、あの頃は俺の名前を知らなかったわけだし、高梨伊織という名前に何も思い返さないだろう。
そもそも七瀬は俺と会ったことを覚えていないみたいだ。
俺のロマンチックな約束の思い出はそこで終わった…
はずだった。
でも、俺は七瀬夕紀を放って置かなかった。
放課後、七瀬を連れ回した。
バスケ部のマネージャー代理とかピアノのレッスンとか。
七瀬はどんどん俺に打ち解けていって嬉しかった。
一言だった返事も、どんどん多くなって、
普通の会話になった。
「どうなの?七瀬夕紀。
同一人物なんでしょ」
「うん、親友」
「良い話ねー」
千佐都はとても満足げだった。
最近はいじめも減ってきたらしい。
本人の努力か?