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触って、七瀬。ー青い冬ー

第10章 夜明けの水平線



暖かい感情が俺の心を満たした。


幸せだと思った。




初めてキスをした、あの夜、
俺は七瀬を求めていた。



酒に酔っていたなんて、
ただ、七瀬に触れるための口実、
言い訳だった。





七瀬の月の光をステージで聞いていて、
涙が出た。



やっと会えた…





俺は君のために、何度も何度も

君の名前を探した。




やっと見つけた。



俺の暖かいあの日々は、既に消えてしまった。


当たり前の幸せは、もう手に入らない。
帰ってこない。



だけど、君だけはここにいて、
そこにいて、まだ、あの頃のように
ピアノを弾いていて、


同じ曲をずっと、俺のための曲をずっと、
美しく弾き続けている。



君は何も分かってない。




俺の10数年間の君への想いも、
その音色や君自身の美しさも、
君の純粋で、まっさらな心も。



君は何も分かってない。






君はそれでも、俺から離れると言った。




《先生がいいな》




俺は、君を苦しめてきたその男にすら
叶わなかった。



《酔った勢いだったし、あんまり気にしてないかもしれないけど》



酔ってなんかない。


全部、俺の意思だった。


初めてだった。

誰かの肌に触れて、口づけをして、
涙が出そうな程の幸福感に満たされたのは。



君はそれでも、俺から逃げようとしていた。



当たり前だ。



君のその、白い手首を縛った俺が悪かった。


柔らかい肌を痛めつけた俺は、君には相応しくない。


叩かれて赤く染まった肌を見て、溜息が出るくらいに興奮した。



だけど、
それじゃあ君は壊れてしまうから。





こんな、君を苦しめてしまう俺は、君と居てはいけなかった。



抵抗できない君の優しさに漬け込んだ俺は馬鹿だった。






……



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