触って、七瀬。ー青い冬ー
第2章 保健室の吐息
「別に、暇ではないけど」
僕だって自分の部活がある。
「じゃあなんで手伝いなんかしてんだよ。
お前の部活は?」
「香田に関係ないだろ」
僕は少し、強くなったはずだ。
反抗するくらいの力はついたはずだ。
あの頃みたいに、大人しくやられてばっかりじゃない。
僕は変わったはずだ。
「なんだお前」
香田は目を細めた。
僕は今、抵抗したというより、単に香田を変に刺激してしまっただけかもしれない。
「自分のチームが勝ってるからって強気になってんのか?あ?」
香田は昔のまま、中身は変わっていなかった。
「違うよ」
香田は僕の腕を掴んだ。
あの頃のように、僕の手に腕時計はなかった。
「お前のチームは高梨のおかげで成り立ってんだよ。あいつさえいなくなれば俺達はいつも通り圧勝できる」
香田の力は強かった。
僕の腕に食い込む手は、前よりずっと大きかった。
「だからなんだよ」
僕は、精一杯強くいようとした。
前みたいに、突き飛ばされたりしないように、足をぎゅっと地面に押し付けた。
「俺があいつを潰してやるよ」
香田が小さく呟いた。
「な…」
僕はその一言で全ての力を奪われた気がした。潰すって…どういう意味だ。
「そんなにあいつが潰されるのが可哀想か?」
香田が面白そうに笑っている。
「あ、違うな。」
香田は僕の耳元で囁いた。
「お前、あいつが好きなんだろ」
僕は体が震えるのを感じた。
恐ろしさで喉が乾いていく。
これは、前と同じだ。
あの時と同じだ。
「その表情、大正解って感じだな」
香田はくっくっと喉で笑った。
「あいつは気づいてるのか?お前がホモだって」
高梨は気づいていないはずだ。
今までもこれからも、恋愛について話すことはない。
「もしあいつが試合をやりきったら、
あいつには言わないで置いてやるよ。
でももし俺達が勝ったら…」
僕は息ができなかった。
僕は目の前が見えなかった。
「あいつに伝えてやるよ。
お前が本当はホモだってな」
「や…やめろ」
「お前の大好きな高梨が勝てば良い話だ。簡単だろ?俺はただプレイするだけだ」
「高梨に怪我をさせたら許さない」
僕がなんと言ったって、変わらないとわかっていた。
「スポーツに怪我は付き物だぞ?
あいつにもそれくらいの覚悟はある」
香田はコートに戻っていった。