触って、七瀬。ー青い冬ー
第10章 夜明けの水平線
…
「夕紀、いつまでここにいる?」
「んー、ずっと」
この大きくて柔らかいベッドで、いつまでも翔太さんにイかされていたい。
「ずっと?」
「うん、ずーっと」
「いいよ」
僕は翔太さんに覆いかぶさって、
深いキスをした。
翔太さんは受け入れてくれる。
何も言わなくても、いいよって言ってくれる。
ピロピロピロン♪
スマホの着信音が鳴った。
僕は唇を離さない。
翔太さんはスマホを取って、キスをしたまま電話を取った。
「…ん、ん」
翔太さんはキスをしながら相手の話を聞いていたが、突然翔太さんの唇が動かなくなった。
僕は唇を離した。
翔太さんが驚いた表情をしている。
「…うん、うん」
キス、続きしたいのに。
「誰?」
翔太さんは僕を見ていた。
「…うん、いるよ」
「翔太さん?」
翔太さんはスマホを耳から離し、僕の目を見た。
「君のお母さんが下に来てる」
「…あの…」
僕は翔太さんと一緒に、母親の前に立っていた。
「何から…説明すれば良いのか」
翔太さんが僕の背中を撫でていた。
僕は俯いていた。
目なんか、合わせられない。
母親の表情も見られない。
一体、僕はどうしてこんなに落ちこぼれたんだろう。
今まで、完璧な良い子だったのに…
お母さんと同じ、立派な医者になるはずだったのに…
「…今まで逃げてて、ごめんなさい」
僕はそう言うしかなかった。
「怖くて…」
“ この野郎、この野郎!”
“っぐ、ぐふっ”
先生が殴られてる。
どうしよう、死んでしまう。
父は先生を殺しそうだ、
どうしよう、どうしよう。
「お、お父さんが、先生を殴ってから、どうしたらいいのか、わから、わからなくて」
僕は喋り方も分からなかった。
「僕は、先生は、無理矢理したんじゃなくて、先生は悪くなくて、だから、僕は、
僕は…」
母親って、どんな人間?
僕は知らなかった。
まるで、機械みたいだった。
そこにあって、お金だけ渡す、名前はお母さんというロボット。
悪いことをしたら、「いけません」という機能つき。
「だから、どうすればいいか、わからなくて、僕は」
僕は、逃げました。
「ご、ごめん、なさ、っい」