触って、七瀬。ー青い冬ー
第10章 夜明けの水平線
父と母は体裁ばかり気にしている。
僕がどう苦しもうが、僕が加害者でなければ、共犯でなければ、それでいいのだ。
被害者である限り、賠償を受ける権利があり、それは損失にはならない。
僕がどうなろうが、この二人は気にしない。
僕はもう高校二年生で、自立していて、
この二人に金銭面以外で頼るものはない。
頼るべきでもない。
でも、どうして疑問に思うのだろう。
この二人は本当に、僕の親なのかと。
…もし僕が本当のことを言ったら
どうなる?
もし、僕は先生の行為を受け入れていたと言ったら、この二人はどんな顔をする。
葉山先生は親がわりだとさえ思っていて、
ここにいる二人よりもよっぽど親らしかったと言ったら?
先生は確かに未成年の僕としてはいけないことを幾たびも重ねてきた。
でも、僕が先生の味方をしたらどうだ。
僕は追い出されるかもしれないし、
この二人に、お前はうちの子供じゃないと言われるかもしれない。
でも、それの何がいけない?
むしろ、それがいい。
僕はこんな家の子供じゃない。
僕には親なんていなかった。
こんな親ならいなくていい。
要らない。
僕は何も要らない。
恵まれてるとか、贅沢だとか言う奴には言ってやりたい。
僕は恵んでくれなんて言ってない、
君達が恵まれないことを望まなかったように、
僕は恵まれることを望んでなどいなかった。
《羨ましいな》
《親がいるって》
僕の目の前に、色々なことを話し合っている両親がいた。
二人とも、社員みたいだった。
僕という商品が風評被害を受けて売れ残らないように、どうするか話し合っていた。
ごめん、高梨。
君はたくさん苦労をして、悲しんで、
僕よりずっと辛かっただろう。
でも、君は恵まれてた。
僕より、ずっと恵まれていた。
ただ、それを失ってしまっただけだ。
「僕は先生が好きでした」
「先生は確かにいけないことをしました」
「でも、僕は受け入れました」
「先生は悪くありません」
「僕と先生は」
僕の頬が、母の手によって叩かれた。
「ふざけてるの?」
母は僕の目を見ていた。
もう終わりだと思った。
「違います」
僕は首を振って立ち上がった。