触って、七瀬。ー青い冬ー
第10章 夜明けの水平線
「ふざけてるのはそっちだ」
僕は全てを投げ捨てることにした。
もう、こんなもの要らない。
「僕が先生のことを拒まなかったのは、
あんたらが親らしくしなかったからだ」
この家も、親も、恵まれたもの全て。
「先生しか、僕を見てくれなかったからだ」
両親は僕を怯えたような、恐ろしいものを見るような目で僕を見ていた。
「今更、 親の立場使って僕を口実に先生から金を吸い取るつもりなんですか。
医者と弁護士が、揃って何やってるんですか。
金がもっと欲しいですか、
まだ足りませんか?」
僕は初めて両親に歯向かった。
これが最初で最後だと分かっていた。
「いい加減にしなさい!
誰のための金だと思ってる。
お前のために私達は…」
「僕のため?笑わせないでください。
僕はあなた達の道具じゃない!」
「夕紀」
父は僕の胸ぐらを掴んだ。
「今までお前を育てるのにどれだけ苦労したか、分からないのか。
今日、お前のその口がすべての私達の努力
を踏みにじったんだ」
父は今にも僕を殺しそうな目をしていた。
「全て私達のせいでこうなったと、
お前はそう言いたいんだな?
今回の件も含めて、お前は私達に非があったと言いたいんだな?」
「離してください」
僕は突き飛ばされた。
僕は床に投げ出され、両親を見上げた。
「出て行け」
ああ、言われなくてもそうする。
「二度と…二度と帰ってくるな」
僕の家は、ここじゃない。
僕は立ち上がって、頭を下げた。
「今まで、お世話になりました」
「…夕紀君?」
細い目が、うっすらと開いて僕を見た。
「先生」
僕は先生の手を握った。
先生はベッドの上に横たわっていた。
頭に包帯を巻いて、頬にはガーゼが当てられている。
「来てくれたんだね」
「先生、ごめんなさい」
僕は悲しかった。
あんな父親のせいで、先生がこんなに傷ついていることが苦しかった。