触って、七瀬。ー青い冬ー
第10章 夜明けの水平線
また、君に触れてしまわないように。
「さようなら」
指先が真っ赤になって、かじかんでいた、
首に巻いたマフラーに鼻を埋めた。
病院の前に立って、広い道路を走る車を目で追った。
肩に粉雪が積もっていた。
向かってくるハイライトに、僕は手を挙げた。
大きい荷物を抱えて、
タクシーに乗りこみ、行き先を告げる。
窓には白い粒が吹き付けていた。
今年の冬も寒いですね。
これから、もっと寒さは厳しくなるそうです。
春になったら、僕達、
前に進めるといいですね。
「おかえり」
扉が開いて、翔太さんは腕を広げた。
僕は床に荷物を落として、胸に顔を埋め
た。
扉も閉めないで、僕達は玄関先で抱き合った。
翔太さんの手が僕の雪の積もった頭を撫でた。
「泣いていいよ、誰も来ないから」
泣いていいよと言って欲しかった。
ずっと。
「っ…うぅっ、せんせ…、うぅう」
「うんうん、辛かった辛かった」
翔太さんの手が僕の背中をさすった。
「翔太さん、馬鹿」
鼻がつまっていて、掠れた声が出た。
「うんうん、馬鹿だ馬鹿だ」
冷たい風が足元を通り抜けた。
「ここ、寒い」
「うん、中入ろっか」
翔太さんが扉を閉めようと僕を
中へ入れる。
「お風呂入る?雪すごい付いてる」
「入る」
「あはは、すごい鼻声」
「うるさい」
「はいはい、すみません」
翔太さんがお風呂のお湯を入れた。
「翔太さん」
「ん?」
「僕、家追い出されたよ」
「…そっか」
「だから、僕もう自由なんだ」
「じゃあ、お祝いしないとね」
「うん、ケーキ食べよ」
「ケーキはクリスマスまでとっとこうよ」
「食べたいんだよ」
「仕方ないなー」
「翔太さん」
「ん?」
「大好き」
「…俺、も、って言うとこだけど」
「わかんないんだもんね」
「いや、俺も」
「別にいいよ、無理して合わせなくて」
「じゃあいいや」
「いいのかよ」
「まだまだ君はお子様なんだから」
「もう大人です」
「お、言うね」
…