テキストサイズ

触って、七瀬。ー青い冬ー

第2章 保健室の吐息



僕はどうにかしなければ、と思った。

「七瀬!」

高梨の声だ。

「はい」

チームの方へ駆け寄り、タオルと水を手渡す。

「そろそろ試合再開するぞ。
七瀬、応援頼む」

高梨が僕の肩に手を置いた。

「高梨」

「なんだ?」

変に忠告なんかしたら、試合に影響してしまうだろうか。高梨は動きにくくなってしまうだろか。でも、怪我なんてして欲しくない。

「相手の、香田って奴」

「ああ、あの危なっかしい奴か」

「気をつけて。次、高梨をマークするらしい」

高梨は吹き出して笑った。

「お前は預言者かよ」

試合が始まればわかるはずだ。

「本当だから、怪我しないように気をつけて」

「あーわかった。ありがとな」

高梨はまた、僕の肩をぽんと叩いた。

こうやって普通に話せるのは、これが最後になるかもしれないなんて…





「試合開始!」

香田はまだベンチに座っていた。
高梨はスタメンで、すでにボールを思いのままにしていた。

試合は順調、うちのチームが圧倒的に勝っている。しかしその点はほとんど高梨のシュートで得たものだ。

点差が開いた頃、選手交代があった。

ついに香田がコートに入った。
高梨はそのまま、コートに残っている。

香田は、しっかりと高梨の動きを目で追っていた。

いつ仕掛けるつもりだ?

派手にやり過ぎれば、香田は退場になる。
そして、チームの得点も伸びることはなくなるだろう。それでも香田は高梨を潰すことだけを考えているのだろうか。

あいつの本当の目的はどっちだ。

高梨を潰すことか、それとも、高梨に僕の秘密を暴露することか。

どちらにしろ、高梨が香田に負けてしまったら、その両方の目的が達成されてしまう。

「高梨!絶対負けんな!」

僕はコートに向かって叫んだ。

高梨に聞こえていたのかわからないが、
きっと届いたはずだと信じたい。

すると、香田がついに動き出した。

高梨がボールを持つと、そこへ一直線に向かっていき、体当たりでボールを奪いにいく。

まだ笛はならない。
影になるところで巧妙にやってのけているようだ。

高梨がボールをパスした後、少し右足を引きずったのがわかった。

「あいつ…」

香田の仕業だ。
ついに、ほんとうに高梨を潰しにきたようだ。

それでも、高梨はまだ勢いを増してボールをゴールへと入れていく。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ