触って、七瀬。ー青い冬ー
第11章 薔薇の蜜
「要らないとか、補助してもらった人に言うことか?」
「別に、頼んでないし」
「へぇ、そうかそうか、じゃあもう手伝わねぇよ」
「別にいいけど」
…倒立って、死ぬほどどうでもいいし、
特に凄い技でもないし。
くだらない口喧嘩するほどのものじゃないのに。
俺達のこの、ぎこちない、油が切れて軋んでいる、噛み合わない歯車のような空気はなんだ。
ぎぃぎぃ音がして、耳を塞ぎたくなる。
でも、どれだけ俺が油を注いでも、
全く変わらない。
七瀬は俺を避けているし、俺が悪いのは重々分かってるし、…離れる方がいいのも、
わかってる。
でも、隣にいるとわかっていると、どうしても見てしまう。
話しかけたら、きっとお互い気分が悪くなるくらいぎこちなくて、素っ気なくて、
また関係がぎぃぎぃと軋む。
だから、俺は大人しく見ていることにした。
今までの、空席の隣を見て落ち込んでいた1週間よりは、ずっと良い。
ずっと良い、はず。
そんな日々が続いた。
12月の一週間が過ぎるのが、
本当に遅かった。
「高梨君」
ある日の放課後、体育館へ向かう途中。
「ん?」
振り向くと、例の女子3人組がいた。
なんだ、今度は。
「最近、その…二人、どうしたの?」
一人は、いかにも聞きにくそうに言った。
「…二人って、俺と七瀬?」
「そう。なんか、最近あんまり話してないよね、前みたいに」
「まぁ、そうだけど」
「もしかしたら、あの紙とか、噂のせい、かなーと思って」
ああ、そんな話があったな。
忘れてた。
「それで…反省して、もうああいう変な噂信じないことにしたし、あの、見ちゃったのは多分違う人だし。高梨君、全然知らないみたいだったし」
俺と見間違えられたのは兄で、
そう思われても仕方ない。
「噂も広まらないように、私達がちゃんと注意して周り見てるから」
「だから、私達のせいで仲悪くなっちゃったなら、本当にごめんなさい」
俺は全くそんなことを考えていなかった。
「いいよ。全然、噂とか気にしてない」
女子3人は申し訳なさそうに去っていった。
「原因がそんな可愛いもんだったらな」
体育の授業で、色々と思い出してしまった。
それは、七瀬の縛られた手首とか、
すっとした背中とか、鎖骨とか