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触って、七瀬。ー青い冬ー

第2章 保健室の吐息



そして、試合は残り1分になった。

点差は6点、うちのチームが勝っているが、高梨は本調子ではなかった。

右足よりほかに痛めたところはないようだが、その右足が重かった。

香田は高梨のマークを緩め、シュートを決める方に狙いを定めたようだ。

残り30秒で一本が入り、後3点差にまで近づいてしまった。

ボールは香田が持った。

「5,4,3」

ゴール前に香田が立つ。
ボールが香田のてから離れた。

これが外れれば…


「2,1」


ブザーが鳴った。





結果は、3点差でこちらの勝利。
ボールはゴールにぶつかって、入らなかった。
香田は高梨を潰すことはできなかった。



「ありがとうございました」


挨拶が終わった時、香田と高梨だけがコートに残っていた。

香田がなにかを言ったみたいだった。
高梨はなにも言わず、香田を睨みつけている。


「高梨!」

監督が高梨を呼び、高梨は香田の前から離れた。

香田が、高梨の背中越しに僕の方を見た。
僕は香田を睨んだ。

香田は何も言わず、コートから去った。

「いってぇ」

高梨はコートから出た途端、床に腰を落とした。

「高梨、足は」

高梨は右足を投げ出した。

「…香田って野郎、あいつはバスケなんかやる資格ない」

僕は高梨の靴を脱がそうとしたが、高梨はそれを制した。

「自分で脱げる」

高梨は顔を歪めながら靴を脱いだ。
靴を脱ぐと、靴下は赤く染まっていた。

「ひどい…」

僕は痛々しくて直視できなかった。

「骨がやられてるわけじゃないと思うから、すぐ治る」

高梨が言った。

「医者には行った方がいいよ。もしヒビが入ってたら大変だから」

「…そうだな。そうする。」

高梨はうなづいて、靴に足を突っ込んだ。

「今日はさすがに何もできないから、
とりあえず保健室にでも行く」

高梨は立ち上がり、右足を浮かせた。

「付き合うよ」

僕は支えようとしたが、高梨は首を振った。

「いや、もう遅いからお前は帰れ。
今日も付き合わせて悪かったな」

「う、ううん、全然」

足を痛めているからか、高梨は少しそっけなかった。

「また明日。ありがとう」

「うん、また明日」

高梨の足がすぐに治りますように。
香田との試合に、この先当たりませんように。

僕が祈ったって何も変わらないけれど。

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