テキストサイズ

触って、七瀬。ー青い冬ー

第11章 薔薇の蜜



誰か、俺と過ごしてくれる人はいないか。

お客さんなら喜んで、俺に尽くしてくれるだろう。

でも、俺が欲しいのはそんな一方的な、
簡単に手に入る関係じゃなくて…





そう、俺はいつも、手に届かないものばかり欲しがった。






“ にい、あれ欲しい ”

“ どれ? ”




街を二人で手を繋いで歩いていた。

まだ小さかったけど、両親は次の日の漁に備えて早く寝てしまったので、俺と兄貴は家を抜け出したクリスマスイヴ。


街はイルミネーションで飾られ、
星が降ってきたみたいにキラキラしていた。


“ あれ ”


俺は兄貴に手を引かれながら、上を指差した。


“ あの星? ”

指の先には、クリスマスツリーのてっぺんに乗っている、大きい星。


“ 伊織、あれはみんなのものだから
勝手にもらっちゃだめなんだよ ”

兄貴はそう言って、俺の手を引いた。


“ みんなのもの?みんなって誰? ”

兄貴は時計を見た。
そろそろ帰らないといけない時間だった。

“ ここにいるみんな ”

俺は辺りを見回した。
誰もクリスマスツリーなんか見ていなかった。俺だけが、目を輝かせてその星を見ていた。


“ 伊織も、みんなでしょ?
伊織のものでしょ? ”


兄貴は立ち止まった。


“ そうだけど…そうじゃなくて ”


こんなチビをつれた中学生が夜中の街をうろついていたら、補導されかねない。
でも、兄貴はしゃがんで俺を説得しようとした。


“ あの星がなかったら、クリスマスツリーじゃなくなっちゃうでしょ?
そうしたら、みんな悲しいよ。
伊織があの星を奪っちゃったら ”


兄貴は俺に優しかった。
大声を出したり、手をあげたりしないで、
言葉で俺に教えてくれた。
強引にここから引き剥がそうとしなかった。

“ …うん ”


俺はうなづいた。納得なんかしないけど、
とにかく自分のものにしちゃいけないんだと。


“ 伊織は良い子だね ”

兄貴は頭を撫でて、また立ち上がった。
俺の手を引いて、クリスマスツリーからどんどん遠ざかっていった。












“ 伊織! ”


クリスマスが終わった頃、兄貴が家に帰ってきた。


走って、俺の前に飛び込んだ。


“ これ、貰ったよ ”



兄貴の手には、あの星があった。


ストーリーメニュー

TOPTOPへ