触って、七瀬。ー青い冬ー
第11章 薔薇の蜜
そして、
ついに兄貴は
俺の欲しいものを自分のものにして、
もう譲らないつもりだ
だから、俺は
今度こそ
自分の力で手に入れないといけない
「…話って」
七瀬は、お茶をすすって聞いた。
「ごめん」
放課後、作法室。
俺と七瀬は正座していた。
「何の話」
七瀬はお茶を飲み終えると、
またお茶を淹れ始めた。
七瀬は茶道部で、この作法室は部活で使われている。
「あの夜、七瀬としたこと」
「別にいいよ」
七瀬に話があると言うと、七瀬はここに俺を呼んだ。
「飲んだら」
七瀬は和室が似合う。
「…頂きます」
抹茶の香りが広がった。
少し苦味がする。
「美味しい?」
七瀬は正座したまま俺を見ている。
「…美味い」
七瀬は少し微笑んだ。
「良かった」
何か、余所余所しい。
気持ち悪い。
七瀬はこんなんじゃない。
「…良くないだろ」
七瀬は無意識にそんな態度を取っているのか?
「お茶、美味しくなかった?」
七瀬は不安そうに聞いた。
「そうじゃない」
俺は茶碗を置いた。
「どうしたの」
「…じゃあ聞くけど」
七瀬は俺に何も言わなかった。
あの後、どこへ行ってどうなって、
どうして今ここにいるのか。
「あの夜の次の日、
俺の部屋から出て、どこ行った」
俺は知っている。
でも、それを七瀬は知らないはずだ。
翔太が俺たちの兄弟関係を明かすとは思えない。いずれ七瀬は気付くだろうが…
電話で聞いたことが本当なのか、
それは七瀬もおもっていることなのか?
「…家に帰ったよ」
「それで」
「全部なかったことにするって。
先生も両親も、それでいいって」
七瀬はお茶を立てた。
白い肌が抹茶の色を引き立てていた。
「じゃあ、お前は今家にいるんだな?
両親も今まで通りで、全部元どおり?」
湯気が微かに七瀬の眼鏡を白くした。
「そう」
七瀬が顔を背けて、首元が見えた。
紅い印
息が震えた
体が熱かった
「七瀬」
七瀬は置かれた茶碗を片付けた。
「…そろそろ行ったら。
練習、あるんでしょ」
もう、あいつのものになった?
「ここも、もうすぐ部員が来るから」