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触って、七瀬。ー青い冬ー

第11章 薔薇の蜜



高梨、改めバカなしはにっこりと笑って僕を見た。

やめろそのキラースマイル。

「何喜んでんの!?
あんた天性のドSだろ!

生まれる瞬間から産道で母親の苦しみ見て喜んでただろ!」


「それは言い過ぎだろ、
せめて物心ついてからにしろよ」


「とにかく!!

今すぐ神野さんを捕まえて、
全部誤解だって説明してくるから!」

僕は立ち上がって襖に手をかけた。


「何ハイになってんだよ七瀬」

高梨は僕を引き止める。


「そんなにあの噂が気に入らない?」


何だよその聞き方。
その噂が嫌だって言ったら、
間接的に高梨と付き合うことが嫌だ
みたいに取られてしまう。

でも



だからって、嫌じゃないなんて言ったら

本気で、ずっと好きだったとか
冗談抜きでそう告白したら


高梨は絶対引いてしまうし

高梨は全部、冗談で、
これはただの悪ふざけだと思ってるはずで



「あんな噂広まって、良いわけない」


僕は必死にそう吐き出した。

それは僕の本心。

男が好きだなんて、絶対知られたくない。

ましてや、本気の僕の恋心が、
こんな形で、高梨の遊び心で
全校に知れ渡るなんて

苦しすぎる



何考えてんだよ、ほんとに


「行ってくるから」


僕は襖を開けて飛び出した。

「七瀬!」


高梨は僕を追いかけはしなかった





……



「…何考えてんだ俺…」


襖は開いたままで、七瀬が消えた廊下の先が見える。


噂が一人歩きしてしまえば、
俺達はそういう関係だと思われてしまえば、七瀬は俺のものだと思わせれば

七瀬はもしかしたら、空気に流されてくれるのではないか


…なんて、安直な考えで


だって七瀬は、俺にキスをした


それは初めて、七瀬がとった行動。


俺が頼みはしたが、
それでもあいつは自分から唇を合わせた。


それだけで、舞い上がった。


だから、七瀬は流されてくれるんじゃないかって…


「んなわけないよなぁ…」


七瀬が受けるかもしれない被害なんて考えもしないで、噂を肯定してしまった。


七瀬が無事に神野を説得できれば良いが。


「…あー、本当バカだな俺」


立ち上がって、作法室を出た。


「あいつらどこ行ったんだ?」


はぁ、と溜息をついた。


まずはあの二人を探さないと…


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