触って、七瀬。ー青い冬ー
第2章 保健室の吐息
『また明日』
なんて言われてしまったので、帰るしかない。でも、やっぱり高梨の様子が気にかかった。
「七瀬」
「はい」
顧問が僕を呼んだ。
「今日はありがとう、助かった。
マネージャーからも礼は言うように言っておくよ。あと、最後にこれだけお願いしていいか」
手渡されたのは、高梨の使っていたタオルと水一本だった。
「これ、僕が渡しに?」
「君、高梨の親友らしいじゃないか。
私が渡すよりずっと慰めになるだろう」
「はぁ、まあ…」
高梨は僕を早く帰したがっていたみたいで、その後に会いに行くのは少し気まずい。
「じゃ、よろしくな」
「…はい」
…
コンコン、と扉を叩いた。
「失礼します」
保健室は、まだ明かりがついていた。
「お、いらっしゃい」
保健室で座っていたのは、真山先生だった。
「君もバスケで怪我でもしたの?」
真山先生は養護の先生では珍しい男性だった。女子生徒からは優しさと甘いマスクで人気らしい。
「いえ、渡すものがあって」
「なるほどね、伊織君ならそこに寝てるよ」
「ありがとうございます」
「じゃ、帰りは鍵閉めてってね」
「あ、あの、先生お帰りですか」
真山先生は机の上をかたづけ始めた。
「もう定時だからね。
伊織君の世話してあげて。それじゃ」
「あのー…」
ばたん、と扉は閉まってしまった。
「七瀬?」
カーテンの中から声がした。
カーテンをあけると、高梨がベッドに横になっていた。
「帰れって言ったのに」
高梨は不満そうだった。
「これ、顧問の先生に頼まれて」
「ああ…」
タオルと水を手渡した。
「ありがと」
高梨は、タオルで額と首筋を拭った。
少し肌が湿っている。
「…何?」
「あ、いや」
僕は変態か。
鎖骨が見えて…なんて言えない。
沈黙が訪れる。
「たかな…」
「もう帰る」
高梨が足をベッドから下ろした。
「ちょっと待って、まだ休んでた方が」
「お前、俺が帰るまでいるつもりだろ」
「居たら嫌なの」
「ちっ…がうけど」
高梨がおかしい。
僕を突き放すようなことばかり。
…まさか、なんて思いたくなかったけど。
「…香田になんか言われた?」
「なんで…いや、言われてない」
「絶対なんか言われただろ!」
「言われてない!」