触って、七瀬。ー青い冬ー
第11章 薔薇の蜜
結局、神野さんは見つからなかった。
「はぁ……」
溜息をついても、真っ白な天井は優雅で、
このふかふかした大きなベッドも、
呑気に僕を包み込んでいた。
「どーしたの、夕紀」
となりに寝ていた翔太さんが、
僕に聞いた。
翔太さんの優しい声を聞くと、
高校生なんか本当に子供なんだって気付かされる。
…高梨は高校生に見えないくらい大人っぽいけど、僕はやっぱり子供だ。
「学校で色々あって」
僕は実家を追い出されてから、翔太さんの家にずっと居候している。
ここから学校へも通っている。
翔太さんは僕を送るというのだが、
それじゃ翔太さんが怪しまれるし、
高梨が見たら多分、変に刺激してしまいそう。
高梨は、翔太さんを知っている。
なんで知ってるのかは分からないけど、
きっと夜のお店に出ている二人だから、
一応同業者という繋がりなのだろう。
「学校かー、いいね。青春楽しんでるね」
「…そういうんじゃないんですよ。大人はそうやって、高校生を馬鹿みたいに…」
翔太さんが僕の顔を覗き込んだ。
「んー?高校生が生意気な口聞いてるな」
「ええ、生意気ですよ」
僕は拗ねて見せた。
そうだ、僕は生意気な高校生、子供だ。
こうやって拗ねていられるのも、
僕が子供だから。
翔太さんは大人で、子供の僕も受け入れてくれるから。
「…」
翔太さんは何も言わないで僕のことを見ていた。
「…翔太さん?」
横目で翔太さんを見ると、翔太さんは僕の首元を見ていた。
「何ですか?」
翔太さんは眉を寄せていた。
「夕紀、またやられたの」
翔太さんの指は僕の鎖骨を撫でた。
「何をですか?」
「キスマーク、増えてる」
翔太さんの優しい声が僕を責める。
「っ…」
頭の中に浮かんできたのは、高梨伊織の
狼のような目だった。
《触って》
《七瀬》
《キス、して》
僕はあの時、高梨が本気で僕を誘っているのかもしれないって思ってしまった。
完全に、あの男の罠にはまったのだ。
あの目は、あの夜の目と同じだった。
目の前の僕を獲物みたいに
空腹を満たすことしか頭にないみたいな顔で追い詰めて、
その色気で罠にかけて
僕を唇で捕まえて
僕の首に歯を立てた。