触って、七瀬。ー青い冬ー
第11章 薔薇の蜜
「見て、七瀬夕紀だ」
七瀬夕紀、その名前は彼が入学した時から有名だった。
後に転入する高梨伊織にも劣らない程に。
「あの人すごいかっこいいー、
超美形じゃん」
人形のような透き通った肌と、
少し垂れた大きな目に冷めた表情。
「どーせ私達なんか眼中にないんだよ」
七瀬夕紀が通る度、周りはシンと静まり、通り過ぎた途端、一斉に好き勝手噂話を始める。
「両親は医者と弁護士なんだってー」
「違うでしょ、絶対両親俳優とかじゃん」
「どっちにしろ、神に全てを与えられたって感じ?」
「それー」
人々は彼の憂鬱を知らなかった。
そんな世間の目から見れば七瀬夕紀は無口で、人当たりは決して良くなかった。
その見た目と、イメージ通りの冷たい態度は、さらに人々の中の七瀬夕紀を理想化していった。
そんな孤独に愛された七瀬夕紀に、
唯一話しかける強者が現れた。
それが高梨伊織。
高梨伊織は、七瀬夕紀とは見た目も性格も正反対だった。
二重で切れ長の細い目に、
見透かしたように笑う口元。
身長も頭一つ高く、勉強もスポーツもできる万能型。
それでいて親しみやすい雰囲気を持ち、
他人とは一切壁を作らない。
七瀬夕紀が一番苦手な人種とも言えた。
そんな、白と黒の王子二人が隣の席となれば、人の注目の的にならないはずがなかった。
目立つことを嫌う七瀬夕紀と、
人の目を気にしない高梨伊織。
七瀬は高梨を煙たがり、
高梨は七瀬にしつこく絡んだ。
しかし、その二人が隣の席に座り初めて
数週間後、二人は誰からみても友達と言えるほど親密になった。
そして、現在までさまざまな憶測、
噂が飛び交った。
それを高梨伊織、
当事者が一蹴するように放った言葉は
混沌を招くことになる。