触って、七瀬。ー青い冬ー
第11章 薔薇の蜜
「…はぁ、はぁ…」
僕は息と膝を震わせていた。
どうしよう、ここまで来て急に
怖くなった。
この角を曲がれば、校門が見える。
もし、みんながあの噂を信じてしまって
僕と高梨が付き合ってるなんて思われて
しまったら。
僕はまた悪目立ちしてしまって、
あの悪夢が繰り返す…
翔太さんには、噂のことや、
高梨とのことを言えなかった。
あれほどはっきりと独占欲を示された
後に、言えるわけない…
それに、翔太さんは僕を愛してはいない。
それをまた思い出してしまった。
チャリンチャリン
同じ黒の制服を着た生徒の自転車が僕を通り過ぎていった。
「…行くしか、ない…」
うん、多分大丈夫なはず。
神野さん一人で、そこまで広まったりしない。
僕は、入学式の日を思い出した。
あの日も、僕は誰かが僕を追いかけて
僕の胸ぐらを掴みにくるんじゃないかと
とても不安だった。
実際はみんな、僕を放っておいてくれた。
僕は話すのが下手で、愛想笑いもできなかったから、友達なんてできなかったけど。
いじめがない、平和な世界。
香田みたいなやつがいない。
寂しくてもそれが一番だった。
そうだ、あの日も大丈夫だったんだ。
だから、今日だって何も変わらない。
僕は俯いたまま角を曲がった。
頭をあげて、しっかりと前を見る。
「…な、なっ…!」
なんだ、コレは
校門の前に、大勢の生徒が集まっていて、
僕を見ていた。
「な、なんで…」
その生徒達の中から、押し出されるようにして、そいつが出てきた。
…高梨、この野郎
僕は今すぐ帰ろうと思った。
こんなの、いじめに等しいくらいの屈辱だ。
コレはなんだ、なんでみんな
見てんだよ、結婚式かよ
顔が熱くて耐えられなくて踵を返した時、
後ろから声がした。
「七瀬!」
…本当に勘弁してくれよ…
高梨が僕を呼んでいる。
「七瀬!本当に帰っていいのか!」
僕は足を進めた。
…終わった。
僕の平和な高校生活が終わった
高梨のせいだ
もう一歩足を進めた時、
ぶるるる、とスマホの振動が伝わってきた。
《 バカ梨 さんから
新着メッセージがあります》
僕はそれを開いた。
《流すぞ》