触って、七瀬。ー青い冬ー
第12章 赤糸の行方
…
「…全校生徒が見てたよ、
お前と七瀬夕紀のキス」
ドン、ドン、とバスケットボールが床を揺らしていた。
座ったところから振動が伝わってくる。
「…ああ、それは狙い通りだった」
ボールがゴールのネットをシュッと揺らしているのを眺めていた。
バスケなんか、こんな重い頭でできない。
「狙い通り?」
「周りがそういう関係だと思えば、
あいつも流されてくれるかな、とか…」
七瀬は人の目を気にしてしまうから、
その壁さえなくなればどうにかなるのかと思った。
「そんくらいの自信はあったわけか」
三刀屋は壁に差をつけ、ボールを上に投げて遊んだ。
「…自惚れてました」
実際、七瀬は人の目をとても嫌がっていた。
俺を殴ろうとしたほどだ。
「…そうかぁ。まさかお前とあいつがただの友達じゃなかったとはなぁ。仲良くなりすぎてキスまでしちゃったかぁ」
仲良くなりすぎて、か…
たしかに、もし七瀬がずっと俺に心を開かず、無口で無愛想な生意気王子を貫いていたら、こんなに気にならなかったかもしれない。
でも、七瀬は会うたびにガードを緩めていくような手応えを与えてくれて、
少しずつ、子供みたいな笑顔も見せてくれて…
その耳とか肌にふれたら、もっと、
知りたくなって。
あの日の夜の顔。
作法室で見た、翔太のキスマーク…
あんなマーク、俺ので塗りつぶしてやりたい
七瀬が泣くくらい強く、刻んでやりたい
「あー…」
ドン、ドン、と床を揺らすボール。
“ あっ、ひっ、ぐ、いっ…ちゃ、ぁあ”
あの、無愛想で無口で、恥ずかしがりで
引っ込み思案な七瀬が、俺の目の前で。
“い、っおりぃ…”
潤んだ目で、声で。
「っ…」
親指の爪を思い切り噛んだ。
「七瀬…抱きたい」
立ち上がって、ゴールに向かってボールを投げた。
ボールはゴールの輪にぶつかって、
入らなかった。
「…七瀬…犯したい…」
ため息をついて、三刀屋の横に座った。
また爪を噛んだ。
「…あの…、ん?
えーっと、高梨君、
何かすごいこと言ったな今」
「あ、今の声に出てた?」
高梨は爪を噛んだまま言った。
「…無意識かよ、やっべー…
てか、やっぱ最後までやってんのか」
「まあ、形だけなら」