触って、七瀬。ー青い冬ー
第12章 赤糸の行方
「形だけなら?」
「俺が…無理矢理やった」
また爪を噛んだ。
「マジかよ高梨ぃ…」
三刀屋も流石に呆れてる。
そして、あの夜を思い出して堪らなく興奮しているのは、俺だけが知っている。
「お前もお前だけど、七瀬ってさ、
そんなに流されやすいの?」
流されやすい…
「…そうだと思う」
ピアノの先生、いじめっ子香田の話を聞くに、七瀬は押されると拒むことができないようだ。
三刀屋はうんうんと頷きながら言った。
「あの顔で押しに弱かったら、そりゃあいくらでも押すよなぁ」
高梨がボールの表面を撫でた。
「ずっと気になってたんだけど、七瀬夕紀って外国の血入ってる?
肌めちゃくちゃ白いし目とか髪の色薄いし、日本人離れしてる身体っていうか」
高梨は爪を噛んだ。
三刀屋は続けて言う。
「まぁ、触りたくもなるよなあ」
空中に向かって呟いた。
高梨はまた、すっと立ち上がった。
「あ、俺じゃなくて、七瀬のことが好きだったら、って話…」
ドン、と高梨の手でボールか床に打ち付けられた。
「三刀屋、ディフェンス」
高梨はボールをドリブルし、ゴールに向かって走って行った。
「はっ、いきなりかよ」
三刀屋は高梨を追いかけ、ゴール前に立ちはだかる。
速く、風のように軽やかで、
まるでボールも何も持っていないみたいな
滑らかな動きで、
ボールは高梨と一緒に風に流されている。
高梨には天性の才能がある。
今日は特に、光を放っていた。
「すっご…」
高梨が切りつけるナイフみたいに鋭く、
こちらに向かってくる。
俺は高梨を止めようと前に出て手を広げた。
「っ…!」
俺を突破しようとする高梨の細い目は、
背筋を凍らせるような冷たさで俺を切りつけた。
そして、俺を挑発するように口の端で笑った。
「あ…」
高梨はきゅ、と音を立てて踏み込み、
思いっきり高く飛んだ。
大きな手はゴールの輪を掴み、ボールを押し込んだ。
ガコン、とボールはゴールを通って床に打ち付けられた。
「はぁ…」
ダン、と高梨はゴールから手を離して足を地面につけた。
こいつも、日本人離れした長い手足と長身で転入時には178センチ、まだまだ背は伸びていて、この2ヶ月で3センチ伸びたとかほざいている。