触って、七瀬。ー青い冬ー
第2章 保健室の吐息
「…」
僕と高梨はにらみ合った。
香田が暴露したに違いない。
じゃなきゃ、こんなによそよそしいはずがない。
…だとしたら。
「気持ち悪い?」
「え?」
「僕は変だと思う?」
「何の話だよ」
「とぼけなくていいよ」
「お前なんか勘違いしてね?」
「…なんで」
「あいつが言ったのは…」
「言ったんじゃん」
「あいつが言ったのは、俺…が」
「高梨が?」
「えっと…」
「嘘つくなよ」
「…俺が下手くそだって」
「え?」
「俺はバスケが下手くそだって言った」
「…本当に?それだけ?」
「それだけ」
僕と高梨は腑に落ちない様子でにらみ合った。
「…なんだ」
はーっ、と二人でため息をついた。
「なんで高梨がため息?」
「いや、その、つられて?」
「?…まぁ…、とにかく、香田が何も言ってなくて良かった」
とりあえず、あいつはバスケに負け、
大人しく引き下がったということだ。
負けた上に暴露までしていたら、香田を恨みきれない。
「何だと思ったんだよ」
「…別に」
「なんだよ、言えよ」
「言わない」
「言えよ」
「嫌だ!」
僕はここから早く逃げないといけない。
ベッドから離れようとする。
「七瀬」
高梨が僕の腕を掴んだ。
「いた…」
「あ、ごめ」
香田に掴まれた腕に、いつのまにか痣ができていた。綺麗に指の跡がついている。
よっぽど強い力だったらしい。
「…どうしたんだよこれ」
高梨が真新しい痣を見つめた。
「え、と…あのー…ぶつけた」
「何に?」
「んー…、あー、ボールボール」
「ボール?手の跡じゃねぇの」
「いや…」
流石に、このはっきりとついた手の跡をごまかすのは、僕には無理だった。
「あの、腕相撲して…」
「誰と?」
高梨は眉をひそめて僕を問い詰める。
「あー…」
「嘘つくなよ」
「ついてない」
「じゃあなんでボールから腕相撲になんだよ」
「思い出したから」
「だとしたらお前の記憶能力は鳥以下だよ」
「うるっさいな!」
「誰にやられた?」
「高梨に関係ない!」
「ある!」
「ない!」
「あるっつってんだろ!」
高梨が声を荒げた。
「なんで怒ってんの」
「お前が正直に言わないから」
「言っても怒るじゃん」