触って、七瀬。ー青い冬ー
第12章 赤糸の行方
高梨は汗で湿った前髪をかきあげた。
「甘いな、みとやん」
俺にその色気を見せてどうする、高梨。
「俺は七瀬の肌も声も、目も耳も、
全部知ってる」
高梨は俺の方に歩き、詰め寄る。
「見る度に触りたくて」
三刀屋のTシャツの胸元を掴んだ。
三刀屋が一瞬怯んだ。
「おい高梨」
落ち着けや
「めちゃくちゃに犯したい」
高梨の目が、完全に正気を失っている。
多分、七瀬を無理矢理抱いたというその夜は、こんな目で七瀬を見て、貪るように襲いかかったのだろう。
その目は完全に欲情した男の目で、
熱っぽい性欲をむき出しにしている。
流されやすいという七瀬夕紀が、この目に抵抗出来たとは到底思えない。
抵抗しても、この男の性欲には負けてしまうだろう。
「壊したい…」
そう呟いて、高梨は俺を離した。
「そんくらい、俺はあいつのせいで狂ってる」
高梨はまた、口の端で笑って見せた。
「でも七瀬はお前を嫌っちゃったわけな」
「…元から、
好かれる理由もなかったんだ」
「どゆこと?」
「元から七瀬は、友達っていうものさえ、
いらないと思ってたみたいで
それくらい、あいつは人間不信に陥ってて
俺みたいのを信じられるわけなかったんだ
でも、しつこく俺が近づいたら
あいつもなんとなく、付き合い方を覚えていって、あいつが許せる、お互いの距離感がわかってきて
ようやく、友達って関係ができて
信頼関係できかけてたのに」
《俺がいなくなったから、
死のうとしたのか》
七瀬の手首に入った、薄い線
あの時、俺は怖かった。
七瀬が俺をそこまで頼りにしていたなんて
わからなくて、危うく俺に伸ばされた助けを求める手を見逃してしまうところだった。
七瀬は一切見せない。
自分が相手をどう思ってるか。
その時、孤独になって追い詰められた七瀬は、ようやくさらけ出した。
七瀬には頼れる、信じられる人間なんかいなくて、やっと、なんとか信じられたのが俺だった。
そして、七瀬が頼れると思う人間はつまり、命さえ預けられる人間だった。
あいつには、守ってくれる誰か、つまり、
まともな両親がいないから。
安心、という言葉を知らないから。