触って、七瀬。ー青い冬ー
第12章 赤糸の行方
これじゃ、洒落にならない。
噂も否定なんか今更できないし。
高梨がそれくらい、僕のことを軽く見ていたということだ。
誰に何と言われたって、
僕なんかただの遊び相手の一人に過ぎないから、
だからあんなことをしたんだ。
「この…馬鹿梨!」
枕を思いっきり投げた時、ガチャ、と扉が開いた。
翔太さんだ。
ほっとしてベッドから起き上がった。
「翔太さん、おか…」
帰ってきたのは翔太に違いなかった。
ただ、綺麗な女の人とキスをしながらだったというだけで…
僕は急いでベッド横のクローゼットに隠れた。
一瞬の差で、二人が来て、翔太はベッドに彼女を押し倒した。
「っん、んっ…」
30くらいの女性は、息をする間もない翔太さんのキスに、目を閉じて感じている。
そうか、これが翔太さんの仕事だった
「可愛い」
翔太さんがキスの合間に囁く。
…僕の時と同じように
「あ、あっ…だめ」
翔太さんは、胸のあたりの服を剥がしながら、腿の脇を撫でる。
慣れた手つき。
《愛のあるセックスって、楽しそう》
翔太さんが言った言葉。
でも、愛があるセックスって何だ?
「見て、繋がってるとこ」
翔太さんは、楽しそうだった
僕の時だって、翔太さんは楽しんでたよ。
愛って、どうやったらわかるの?
「翔太ぁ…」
そうやって、愛おしそうに名前を呼べばいい?
愛が、見えない
二人が行為の全てを終えて、
僕はそれを、映画を見るように見ていた。
女の人ってこうするのか、と
いつか見たような記憶を辿った。
「…また会える?」
「もちろん」
翔太さんは優しく彼女を撫でた。
僕と、その人、何が違うの?
「大好き」
女の人はそう言って、キスをした。
クローゼットの扉の隙間から、僕に太陽の光が当たった。
愛してる、なんて
言ったことがあったかな
誰かに、言ったことがあったかな
翔太さんに、言ったっけな
覚えてないや
でも、確実に言えるのは、
翔太さんは僕に言わなかった
翔太さんは嘘を言えないから
僕は、クローゼットの扉を開けた。