触って、七瀬。ー青い冬ー
第12章 赤糸の行方
二人が、驚いた顔でこっちを見た。
なんか、浮気現場見ちゃったみたいな。
でも、僕は別に、恋人じゃないし、
翔太さんの仕事はわかってるし。
「誰よあんた」
「ゆ、夕紀…?」
「翔太さん、愛してる」
言ってみた。
誰かに言ったことがあるような気がした。
でも、翔太さんは初めて聞いたみたいだった。
翔太さんは、何も考えられなくなったみたいに、固まっていた。
「ねぇ、翔太?ちょっと、何なのよ」
「夕紀…ごめ…」
「何してんのよ、この子。
早く追い出してよ」
翔太さんが、何も言えずに僕を見ていた。
「翔太、ねぇ」
女の人が翔太さんを揺さぶるが、
翔太さんは声が出なかった。
僕は笑ってしまった。
おかしくて。
「…すみませんでした、
お邪魔してしまって。ごめんなさい」
僕は歩いて部屋を出た。
なんで言ったんだろう。
別に、言わなくてよかったのに
「んー、どこ行こうかなぁ」
無断欠席、初めてかもしれない。
僕が家出した時は、両親が律儀に休みの連絡をしていたらしい。
でも、今は誰も連絡する人なんかいない。
なんて楽なんだろう。
なんて自由なんだろう。
僕は鼻歌を歌った。
翔太さん、面白かったな。
エレベーターで、1階まで降りた。
「いってらっしゃいませ、夕紀様」
ロビーの受付の人は、僕のことをすっかり覚えている。僕は笑顔で会釈をした。
大きいビルの外に出て、背伸びをした。
こんな平日の昼間に、こんな街中を歩くなんて。
夢みたいだった。
僕は制服のまま、いろんなところを歩き回った。
まずはゲームセンターに行ってみた。
一度も行ったことがなくて、
初めてだった。
楽しかったけど、また来たいとは思わなかった。
次に、カラオケに行ってみた。
これを、誰かと一緒にやるって、
どんな気分なんだろう。
一人で全然楽しいし、むしろ人がいる前で歌いたくない。
カラオケも、また来ようとは思わなかった。
次に、映画館に行ってみた。