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触って、七瀬。ー青い冬ー

第12章 赤糸の行方



映画館の雰囲気がとても気に入った。
暗くて、ポップコーンの甘い匂いがして、
ジュースの香りがして、
暗くて、ネオンサインがあって。


その日は、よくわからないミュージカル風の映画をみた。

歌手を目指す、売れない女性のシンガーソングライターと、それをプロデュースしたいという、落ち目の冴えないプロデューサー。


とてもいい映画だった。

別に、泣いたり笑ったりしたわけじゃないけど。

その歌手が、ひっそりとCDをヒットさせるという、
ちょっとだけ幸せな最後だった。


それくらいで良いんだ。



最高のハッピーエンドなんか
もう見飽きたから。




映画館にはまた来ようと思った。

次は、きちんと何を見るか決めて。




気づいたら、もう夜だった。

映画館の唯一の欠点は、平気で2、3時間知らないうちに過ごしてしまうということ。

でも、出てきた時に外が暗くなっている、この瞬間さえ、気持ちよかった。

やっぱり、また来ようと思った。




次は、どこに行こう。



夜の街は、金色だった。

キラキラして、輝いていた。


冷たい風が吹いてきた。



気持ちよかった。


僕はやっぱり、夜が好きだ。



ずっとこのまま、夜が続いたら、
どんなに幸せかな。



「ちょっと、君」


呼び止められて、振り向くとそこに居たのは、警察官だった。


しまった、捕まったか。

まだそんなに遅くないはずだ、
と思って辺りを見回したら、ビルの電光掲示板は23時を指していた。

高校生なら、それくらいの時間はほっといて欲しい。


「もう遅いから、そろそろ家に帰りなさい。どこの学校の子?」


若い警察官が、僕の制服を見た。

「黒と赤の制服か。
…朱鷺和学園だね。
学年とクラス、名前は?」


これは、学校の先生に連絡されてしまう奴か…


「2年7組、七瀬夕紀です」

「なるほどねぇ」

警察官が、近くに止まっていた車高の低い車の窓をコンコンと叩いた。

その窓が少し開く。


「どうです?」


警察官は、書き取った情報を中に渡した。

そして、その窓からサングラスをずらした目がこちらを見た。


「…上」


中からポツリと声がした。

じょう、と言ったのか?


「行きますか」

「ああ」


「じゃあ、君、乗って」

警察官は僕の腕を掴んだ。

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