触って、七瀬。ー青い冬ー
第12章 赤糸の行方
七瀬は、眠っているというより、
まだ薬で朦朧としているようだった。
「ん…」
七瀬が熱い息を漏らす。
立花のやることだ。
媚薬に近いものに違いない。
…触りたい。
…いや、駄目だ。
ソファーに腰をかけて、窓の外を眺めた。
あの夜見た景色と変わらなかった。
あの時、キスをしようと引き寄せた時、
七瀬は抵抗しなかった。
ただ、油断していただけだったのか…
分からない。
ただ、今の時点では相当嫌われてしまっているし
もう、あの時のようにキスをするなんて
二度とないのだろう。
…二度と…
これから、どうやってやり直せって言うんだ。
三刀屋は、友達から、と言ったけど
そもそも、俺たちは友達以上だったことはなくて
ただ、体を許してしまっただけで…
「友達って、何だよ…」
七瀬はもう、俺のことを許してくれないかもしれない。
あの時の七瀬の目は、今までにない嫌悪感を俺に突きつけていた。
《離せ》
そんな風に突き離されるなんて、経験したことがなかった。
俺はどこかで安心していたのかもしれない。
七瀬は、無口で無表情で、いつも冷めた目をしていて、打ち解けたと思っても、突然素っ気なくなったり、心を閉ざしたり。
わからなかった。
こんなに心が読めない奴がいたなんて、
驚きとか、動揺とか、そんなものを超えて感動した。
笑ってしまうくらい、天邪鬼で。
それなのに、その肌に触れた途端、
あっけなく漏れる息。
グラスにアイスコーヒーを注いだ。
カラン、と氷が音を立てる。
こんなに寒い夜も、どうしても飲みたくなって、冷たいグラスに少し指先が抵抗しても、唇にグラスを押し付ける。
そして、
冷たい氷が唇に触れる度、思い出す。
あの夜のキス、七瀬の目を。
「ん…」
ベッドの中の七瀬が動いた。
心の中を読まれたような気分だった。
七瀬はいつでも俺の中の触れてはいけない場所を弄る。