触って、七瀬。ー青い冬ー
第13章 愛の嫉妬
「七瀬夕紀と伊織がくっついたりしたら、
あなたも嫌でしょう?
悪いことは言わないから」
少女は、もうひとりの少女に笑いかけた。
「大人しく、あなたの子宮を貸して」
………
「だぁーあぁ!」
苛立ち混じりのため息が、コンクリートがむき出しの地下室にこだました。
ぴちゃ、とどこかで雫が垂れる音がしている。
「なぁんや、つまらんなぁあんた」
明らかに、本場の関西弁ではないものとわかるその口調は、恐らく本人が独自に開発した新しい方言であろう。
少し長い青髪の青年は、ナイフをおもちゃのように回して遊んでいた。
髪をかけている耳には、黒いピアスが光っていた。
「わしらも暇じゃないんや。
その辺、よぉくわかっとんのやろ?
旦那」
ひひっ、と歯を出して笑いながら、
ナイフの先を縛られた中年の男につん、と当てた。
そして、震える豚の顔を気の毒そうに
覗き込んだ。
「あんたぁ、メタボちゃうん?
この脂肪剥いだろか?」
「ひっ、ひぃい…」
捕虜の男は、豚のような足を震えさせた。
「そんな、お化け見たような顔せんといてぇな。凹むわぁー」
「あんたはお化けよりこぇえよ、
立花さん」
後ろのパイプ椅子に座ってそう言ったのは、警官の制服を着ている男だ。
こちらも黒いピアスをしている。
「ひっ…ゆ、許してください、お願いしま…」
「っは、ははははは!」
「ひぃっ!」
ナイフを突きつけたままの男は、
ひょうきんに笑いながら、
時々、その口調を忘れた本性が顔を出す。
「そんなに許してほしいんかぁ、
ほんならな」
そして、その声はあまりに淡々としたものに変わる。
まるでスイッチが切れたように。
青年は、男の前髪を掴み上げて、頭をぐいっと持ち上げた。
「さっさとあんたのお仲間をここに連れてきてくれないと困るんだ、
うちのボスは気が短いんでね、あんたらがぐずるとこっちまで迷惑すんだわ、
ネチネチネチネチ、俺らに関係ねぇことまで引っ張り出してきて説教垂れ始めるわ、
その上気分次第で給料もまともにでないわ、こっちにとっちゃ死活問題ってこと…」
男は、口からよだれを垂らして、糸が切れた人形のようになっていた。
「おい、旦那、聴いてます?」
青年は男の前髪を持って揺らした。