触って、七瀬。ー青い冬ー
第13章 愛の嫉妬
「…そう、かな」
なんで、そのたった一言でこんなに緊張して、動悸がしているんだろう。
僕は、その言葉を聞いて何も言えなくなってしまった。
高梨の視線や、瞬き一つに、僕は息を吸うのを忘れてしまう。
それも、僕がいろんなことに敏感に反応してしまうから、なのだろうか。
高梨は、縮こまったままの僕に、
綺麗な手を差し出した。
「ボール」
その時、その手の親指の爪の先が欠けているのに気がついた。
*
「その友達は、今は、もう話さないけど。
いつも、いろんなことに気づかせてくれました。その人の言葉で初めて知ったことは、数え切れないくらいです」
「そう」
翔太さんは、小さく返事をした。
「それで…
翔太さんとずっと一緒にいて、
僕は、気づかないふりをしなくちゃいけなくなりました。」
翔太さんは、僕から手を離した。
「翔太さんが、その友達に似てるって」
翔太さんが大好きだった。
優しくて、僕を慰めてくれる。
その目や、冷たい手は、
まるで、高梨伊織のようで
翔太さんの顔は、もう見られなかった。
翔太さんは、黙った僕に言った。
「でも、その友達は夕紀を無理やり犯したんじゃないの」
「…そう、です。だから、翔太さんに甘えたくなったんです」
「じゃあ、俺はそいつの代わり?」
…ひどすぎる。
やっぱり、翔太さんの言った通り、
僕は酷い。
僕は、弱いから、何も言うことができなかった。
翔太さんは、僕の答えを待っていたわけじゃないみたいだった。
「夕紀、電話ある?」
「…はい」
翔太さんは、僕のスマホを受け取った。
「そいつ、高梨伊織であってる?」
翔太さんは、僕のスマホを触りながら言った。母、父以外に登録してあるのは、高梨と翔太さんだけだった。
「そうです…けど、
電話するつもりですか」
「うん、夕紀がどれだけ傷ついたか、
俺が教えてあげる」
「そんな、やめてください」
僕が翔太さんから取り上げようとした時には、翔太さんはもう、通話のボタンを押していた。
「もしもし?俺だけど。今、夕紀といる」
二人は、どういう関係なんだ。
「絶対切んなよ」
翔太さんは一方的にそう高梨に言って、
スマホを伏せてベッドに置いた。
「夕紀、最後に、しようよ」